戦後
王都奪還作戦は、誰もが予想していたような激戦にはならなかった。
反乱軍主力が北方へ撤退したとの報が王都へ届くと、城内に残されていた守備兵たちの動揺は瞬く間に広がっていく。指揮を執る将はすでに姿を消し、補給も先の見えない状況では戦い続ける理由を見いだせる者はいなかった。
そして、バルドリック辺境伯率いる王国軍が王都を完全に包囲した翌朝、王城の城門は静かに開かれる。
白旗を掲げた使者が現れ、守備隊は無条件降伏を申し入れた。
こうしてノルガルト侯国の王都は、大きな戦火に包まれることなく王家の手へ戻ったのである。
戦後の調査によって、反乱を主導していた宰相をはじめ、王家へ刃を向けた主犯格の貴族たちは、王都陥落の前後にはすでに姿を消していたことが判明した。彼らは早くからカルドニア王国へ逃れていたのである。残されたのは、事情も分からぬまま命令に従っていた兵士や、逃げ遅れた者たちばかりだった。
一方で、北部貴族のすべてが反乱へ加担していたわけではない。
最後まで王家への忠誠を貫いた者もいれば、中立を守り続けた者も少なくなかった。
また、反乱軍へ加わった貴族の中にも、戦況が変わるや否や兵を退き、自ら王家へ出頭する者が相次いだ。
彼らが口を揃えて願い出たのは、同じ言葉だった。
――責任は家長である自分一人が負う。
領民にも家臣にも罪はない。
どうか家だけは残してほしい。
その嘆願は、戦後しばらくの間、王都へ毎日のように届けられた。
戦後処理を巡る会議では、厳罰を求める声も少なくなかった。
反乱へ加わった以上、爵位の剥奪も、お家取り潰しも当然であると考える貴族は多かったのである。
しかし、その場で国王は静かに首を横へ振った。
「……彼らだけを責めることはできぬ。」
会議室は静まり返る。
国王は一人ひとりの顔を見渡しながら、穏やかな口調で続けた。
「反乱へ加わった者の多くは、カルドニア王国と国境を接する領地の領主たちだ。」
「長年にわたり侵攻の脅威へ晒され、カルドニアから圧力を受け続けてきた。従わねば家族や領民を危険に晒される状況へ追い込まれていた者も少なくない。」
その事実は、この場にいる誰もが知っていた。
国境地帯では、恫喝も買収も珍しい話ではない。表向きは平和を保っていても、水面下ではカルドニア王国による干渉が何十年も続いていたのである。
国王は一度言葉を切ると、静かに息を吐いた。
「そして何より……王家にも責任がある。」
その一言に、諸侯は驚いたように国王を見つめた。
「余は即位した頃から理解していた。」
「カルドニア王国は、いずれこの国を完全に手中へ収めようと動く。」
「属国として従うだけでは、いつか必ず破綻すると。」
誰も口を開かなかった。
国王は自らの非を隠そうとはしなかったのである。
「それでも余は、この国を変えきれなかった。」
「結果として、多くの領主たちを孤立させ、この内乱を招いてしまった。」
重い沈黙が流れる。
やがて国王は顔を上げ、迷いのない声で告げた。
「反乱へ加担した家については、お家取り潰しとはしない。」
「ただし、領地は五年間、王家預かりとする。」
諸侯の表情が引き締まる。
「その間、国の復興のため誰よりも働いてもらう。」
「忠義と働きを示した者には、五年後、領地を返還する。」
処罰ではある。
しかし、それは未来を閉ざす裁きではなかった。
国を立て直すため、再び王家の下で働く機会を与える――それが、国王の下した決断だった。
もっとも、反乱へ加担した以上、何の責任も問われないわけではない。
戦争へ参加した貴族たちは、それぞれの責任に応じた処分を受けることとなった。それが国家として示すべき最低限のけじめだった。
その裁定は瞬く間に国内へ広まり、多くの領民は安堵の息を漏らした。
王家は復讐ではなく、ノルガルト侯国の再建を選んだのである。




