裏ノルガルト大戦
国王派と反乱軍が大平原へ集結している頃――。
偽装村を発見してから三日。
レインたちは昼夜を問わず周辺の監視を続けていた。
森の奥へ身を潜め、街道を行き交う荷馬車の数、人員、護衛の配置、積み荷の種類まで、一つひとつ地図へ落とし込んでいく。
最初は一日に十数台ほどだった荷馬車も、日を追うごとに目に見えて増えていった。
北――カルドニア王国方面から、絶え間なく荷馬車が現れる。
兵糧。
武器。
矢束。
魔石。
さらには軍資金と思われる厳重に封印された木箱まで運び込まれていた。
積み荷を降ろえた馬車は、今度は別の護衛へ引き継がれ、そのままノルガルト侯国内へ向けて南下していく。
その流れは朝から夜まで途切れることがない。
「……増えていますね。」
枝葉に身を隠したエレアが、小さく呟く。
「昨日より明らかに輸送量が増えています。」
隣で街道を見下ろしていたレインも静かに頷いた。
「開戦だ。」
短い一言だった。
だが、それだけで十分だった。
ここまで露骨に補給量が増えれば、もはや隠すつもりはない。
前線へ送り込むための最終補給が始まっている。
その日の夕方、レインは二人へ視線を向けた。
「僕は報告へ行きます。」
「分かりました。」
エレアは迷うことなく頷く。
「こちらは引き続き監視を続けます。」
「任せます。」
短く言葉を交わすと、レインは森の奥へ駆け出した。
◇ ◇ ◇
翌日の昼前。
レインは以前訪れた街の古びた本屋を訪れていた。
店内には相変わらず静かな空気が流れ、古びた本が隙間なく並んでいる。
店番の主人はレインの姿を見ると何も尋ねず、静かに奥を指し示した。
「こちらへ。」
案内された石造りの小部屋で、レインは通信用魔導具へ魔石をはめ込む。
淡い青白い光が部屋を照らし、低い駆動音が静かに響いた。
「こちら第七騎士団本部。」
落ち着いた男の声が聞こえる。
「レインです。」
「確認した。」
レインは地図を広げ、簡潔に報告を始めた。
「カルドニア王国との国境沿いで偽装村を二か所確認。どちらも数百人規模です。」
「カルドニア方面から兵糧、武器、魔石、軍資金と思われる物資が連日搬入されています。」
「補給物資は積み替えられた後、新たな護衛とともにノルガルト侯国内へ運ばれています。」
地図へ視線を落としたまま続ける。
「ここ数日で輸送量が急増しました。」
「補給網は本格的に稼働しています。」
通信の向こうは静かに耳を傾けていた。
「開戦に向けた最終段階と判断します。」
短い沈黙の後、声が返る。
「こちらでも確認した。」
「国王派と反乱軍は大平原へ集結している。」
「戦は、すでに始まろうとしている。」
やはり予想通りだった。
「可能であれば、補給拠点、あるいは輸送路を妨害せよ。」
声色が一段低くなる。
「ただし、アルディア王国が関与した証拠は一切残すな。」
「痕跡も装備も残すな。」
「了解しました。」
レインは即座に答える。
通信はさらに続いた。
「なお、ノルガルト侯国内へ入った補給路については、こちらで対処する。」
「お前たちは国境地帯の補給網に集中しろ。」
「承知しました。」
魔導具の光がゆっくりと弱まり、石室には再び静寂が戻る。
レインは地図を丁寧に畳むと、本屋を後にした。
開戦まで、もう時間は残されていない。
大平原では、まもなく数万の兵士が剣を交える。
その一方で、誰にも知られることなく補給線を断ち切るための戦いも、静かに幕を開けようとしていた。




