ノルガルト大戦7
昨日以上の激戦となった右翼では、砂煙が空を覆い尽くしていた。
怒号が響き渡り、剣と槍が激しくぶつかり合う。火球が空を裂き、風刃が唸りを上げ、爆炎が立ち昇るたびに兵士たちの姿が土煙の向こうへ消えていく。
その最前線では、国王派が誇る五人の強者が、反乱軍最後の超越者を相手に死力を尽くしていた。
一人が真正面から斬り結び、力で押されれば別の一人が横合いから斬り込む。
さらに後方では魔導士が魔法を放ち、その隙に槍兵が踏み込む。
攻撃は絶え間なく続く。
反乱軍の超越者は圧倒的な力で一人ひとりを上回っていた。
戦斧を一振りするだけで大地は砕け、兵士たちは吹き飛ばされる。
それでも五人は退かない。
決して一人で戦おうとはせず、常に誰かが前へ出て、誰かが援護へ回る。
勝つためではない。
敵をこの場所へ釘付けにするためだった。
「邪魔だぁぁッ!」
咆哮とともに巨大な戦斧が振り下ろされる。
轟音。
地面が大きく陥没し、衝撃波だけで数人の兵士が吹き飛んだ。
しかし、その一撃も紙一重でかわされる。
空いた脇腹へ剣が走り、背後から槍が迫る。
反乱軍の超越者は舌打ちすると身体を捻り、戦斧を横薙ぎに振るって二人まとめて弾き飛ばした。
だが、その隙に三人目が踏み込む。
「まだ終わらせん!」
五人は互いに呼吸を合わせ、休む間もなく攻撃を繋ぎ続けた。
決定打はない。
それでも時間だけは確実に奪われていく。
その時だった。
「右翼へ伝令!」
土煙を巻き上げ、一騎の伝令騎兵が戦場へ飛び込んできた。
「中央軍突破!」
「ルーク殿勝利!」
「中央軍、右翼へ援軍接近!」
その一報は戦場を駆け抜けるように広がっていく。
「何だと……!」
反乱軍兵の動きが止まる。
超越者も思わず後方へ視線を向けた。
中央軍が敗れた。
ガレブが敗北した。
その意味を理解できない者は、この場には一人もいない。
さらに後方から法螺貝が鳴り響いた。
中央軍だった。
ルークが押し返した軍勢が隊列を整えたまま右翼へ迫ってくる。
数千の兵が、一糸乱れぬ隊列で前進していた。
兵力差が覆る。
「包囲されるぞ!」
反乱軍の将が叫ぶ。
「全軍後退!」
「右翼は距離を取れ!」
命令は瞬く間に戦場へ広がった。
このまま戦えば、中央軍に側面を突かれる。
最後の超越者まで包囲されれば、この戦は決定的になる。
「ちっ!」
反乱軍の超越者は戦斧を一閃させて五人を牽制すると、大きく後方へ飛び退いた。
国王派の五人も追わない。
「深追いするな!」
「陣形を維持しろ!」
短い号令だけで十分だった。
五人は兵たちの先頭へ立ち直し、戦列を整える。
やがて戦場全域へ退却の法螺貝が鳴り響いた。
低く重い音色が大平原へ広がり、両軍は互いを警戒しながらゆっくりと距離を広げていく。
誰も追撃しない。
二日に及ぶ激戦で、双方の兵は限界まで疲弊していた。
ここで無理に前へ出れば、自ら陣形を崩すだけだ。
それを両軍の将は理解していた。
夕日が西の空を赤く染める頃には、大平原へ再び静寂が戻っていた。
国王派は中央戦線でルークが勝利を収め、右翼でも反乱軍を押し返すことに成功する。
しかし、その代償は決して小さくなかった。
平原には無数の亡骸が横たわり、担架で運ばれる負傷兵の列はどこまでも続いている。
勝者にも敗者にも、戦争はなお終わってはいなかった。
夜――。
反乱軍本陣は昼間の喧騒が嘘のような静けさに包まれていた。
天幕の外では負傷兵のうめき声だけが途切れることなく響き、軍医たちは篝火の明かりを頼りに治療を続けている。
総大将の天幕では、宰相が広げられた戦況図を無言で見つめていた。
左右に控える将軍たちも口を開かない。
重苦しい沈黙が流れる中、宰相はゆっくりと口を開く。
「……反乱軍だけでは押し切れぬと判断した場合に備え、以前からカルドニア王国の一派閥とは話を進めてある。」
将たちの視線が集まる。
「無論、カルドニア王国が表立って介入することはない。」
「現れるとしても傭兵。あるいは身分を偽装した流浪の剣士。」
宰相は静かに戦況図へ視線を戻した。
「実際には、カルドニア王国の一派閥が秘密裏に送り込む超越者だ。」
天幕の空気がわずかに変わる。
「最終的な判断は、あちらが戦況を見て下す。」
深夜――。
静まり返った本陣の外から、慌ただしい足音が近づいてくる。
「急報です!」
見張りの兵が天幕を開き、一人の伝令が飛び込んできた。
宰相は静かに顔を上げた。
「申せ。」




