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英雄なのか?  作者: よろず
ノルガルト侯国内戦
171/239

ノルガルト大戦5


一日目の決戦は終わった。


怒号と剣戟が響き渡っていた戦場は、ゆっくりと静けさを取り戻していく。しかし、それは決して安らぎではない。折れた槍、砕けた盾、焼け焦げた大地。そして、二度と立ち上がることのない兵士たちを、仲間が一人ずつ運び出していた。


あちこちから負傷兵のうめき声が聞こえ、衛生兵たちは休む間もなく傷口を縛り続ける。


国王派の陣地では、兵士たちの間から自然と歓声が上がっていた。


「左翼を押し返したぞ!」


「辺境伯閣下が超越者を討ち取られた!」


「あれが元元帥……!」


疲労困憊の兵士たちは互いの肩を叩き合い、生き残ったことを喜び合う。


兵力では反乱軍が勝る。


それでも超越者を一人失わせた事実は、兵数以上の意味を持っていた。


その喧騒から少し離れた場所で、バルドリックは静かに腰を下ろす。


「閣下!」


駆け寄った将軍たちは、その姿を見て息をのんだ。


鎧を脱いだ腕は小刻みに震え、全身から汗が噴き出している。呼吸も荒く、槍へ体重を預けなければ立っていることさえ難しそうだった。


バルドリックは苦笑を浮かべる。


「……久方ぶりの全力じゃ。」


肩で息をしながら、静かに続ける。


「魔力操作を間違えた。少々、魔力を使い過ぎたわ。」


将軍の一人が表情を曇らせる。


「回復は……。」


バルドリックはしばらく空を見上げ、小さく首を横へ振った。


「明日は戻らん。」


短い言葉だった。


「戦えぬことはない。じゃが、この状態で超越者と戦えば負ける。」


周囲の空気が一変する。


今日の戦いを見た者なら誰もが理解していた。


超越者同士の勝敗は、そのまま軍全体の士気へ直結する。


バルドリックが倒れれば、国王派全軍へ与える影響は計り知れない。


誰も軽々しく言葉を返すことはできなかった。


一方その頃。


反乱軍本陣にも重苦しい空気が漂っていた。


討ち取られた超越者の亡骸は丁重に天幕へ運ばれ、多くの兵士が無言でその前へ立ち尽くしている。


「まさか……。」


「本当に討たれたのか……。」


誰も現実を受け入れ切れていなかった。


彼らにとって超越者とは、戦場で敗れる存在ではなかったのである。


やがて将軍の一人が静かに口を開いた。


「一人失った。」


その声に全員が顔を上げる。


「だが、こちらにはまだ二人いる。」


別の将軍も続けた。


「奴も無傷ではあるまい。」


「明日も同じ戦いができるとは限らん。」


その言葉は仲間を励ますためというより、自らへ言い聞かせるものだった。


失ったものは大きい。


それでも決戦は、まだ終わっていない。


その様子を少し離れた場所から見つめていた宰相は、誰にも聞こえぬ声で小さく呟く。


「……予定は狂ったか。」


地図へ静かに視線を落とす。


しかし、その眼差しに迷いはなかった。


「それでも、この戦は終わらせる。」


その一言だけを残し、宰相は再び本陣へ歩みを進めた。


こうして一日目の決戦は幕を閉じる。


だが、それは戦いの終わりではない。


ノルガルト侯国の命運を懸けた戦いは、さらなる激戦となる二日目へ続こうとしていた。

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