ノルガルト大戦4
反乱軍の超越者が大剣を肩へ担ぐ。
獰猛な笑みが口元に浮かぶ。
「元元帥バルドリックか。」
次の瞬間、その巨体が視界から消えた。
轟ッ!!
大剣と槍が激突した衝撃だけで大地が震え、周囲の兵士たちが思わず足を止める。
バルドリックは槍で受け流そうとしたが、想像以上の膂力に押し切られ、十数メートル後方まで弾き飛ばされた。
両足で地面を削りながらようやく勢いを殺す。
「辺境伯閣下!」
国王派から悲鳴が上がる。
反乱軍の超越者は逃さない。
地面を砕きながら一気に間合いを詰め、大剣を容赦なく振り下ろした。
轟音。
土煙が噴き上がる。
続けざまに二撃、三撃。
大剣が叩きつけられるたび地面は大きく陥没し、衝撃波が周囲へ広がる。
兵士たちは誰一人近付けなかった。
余波だけで命を落としかねない。
「終わりだ!」
反乱軍の超越者は勝利を確信し、大剣を肩へ担いだ。
しかし――。
「……ゴホッ。」
土煙の奥から、小さく咳き込む声が響く。
反乱軍の超越者の笑みが消えた。
ゆっくりと土煙を割って現れたのは、バルドリックだった。
額から血が流れ、鎧も各所が砕けている。
それでも槍を握る手は微動だにしていない。
口元の血を拭うと、小さく肩を回した。
「なるほど……。」
苦笑が漏れる。
「長いこと前線を離れておったせいで、身体が鈍っておったわ。」
槍を静かに構え直す。
「ようやく身体が戦を思い出してきた。」
「減らず口を!」
怒号とともに反乱軍の超越者が再び突進する。
先ほど以上の速度。
大剣が一直線に振り下ろされる。
しかし今度は違った。
バルドリックは半歩だけ身体を開き、紙一重で刃をかわす。
大剣は空を切り、そのまま地面へ深々と食い込んだ。
その一瞬の隙を逃さない。
槍の石突きが脇腹を打ち据え、返す動きで肩を払い、さらに胸当てへ鋭い一撃を叩き込む。
「なっ……!」
巨体がわずかによろめく。
傷は浅い。
だが、その一撃一撃は確実に相手の体勢を崩していた。
「貴様ァ!」
怒りに任せ、大剣が次々と振るわれる。
轟音が戦場へ響く。
しかし、その刃はもうバルドリックを捉えられない。
最小限の動きでかわし、受け流し、隙だけを突く。
左翼で戦っていた兵士たちは、いつの間にか戦いの手を止めていた。
国王派も反乱軍も、その一騎討ちから目を離せない。
さきほどまで圧倒していた超越者が、今は完全に主導権を奪われている。
バルドリックは静かに口を開いた。
「力だけは見事じゃ。」
反乱軍の超越者の表情が歪む。
「黙れ!」
渾身の一撃が振り下ろされる。
バルドリックはその軌道を見切り、肩を掠めさせるだけで懐へ潜り込んだ。
「良い力を持っておる。」
静かな声が響く。
「惜しかったの。」
その瞬間――槍が一直線に走る。
穂先は胸当てを砕き、そのまま男の胸を深々と貫いた。
「ば……かな……。」
大剣が手から滑り落ちる。
巨体がゆっくりと膝をつき、そのまま前のめりに倒れ伏した。
左翼戦線から音が消える。
怒号も、剣戟も、魔法の爆発音さえ遠く感じるほどの静寂だった。
バルドリックは静かに槍を引き抜き、倒れた超越者を一瞥する。
そして反乱軍兵へ穏やかに告げた。
「下がれ。」
「この者を連れて帰れ。」
誰も動けない。
「敵となっても、お主らにとっては戦友じゃ。」
「戦場へ置き去りにする必要はない。」
その言葉に、数人の反乱軍兵が静かに武器を下ろした。
震える手で亡骸を抱え上げ、周囲に倒れていた仲間たちも回収していく。
やがて左翼戦線は静かに後退を始める。
超越者が討たれたという事実は、戦場全体へ波紋のように広がり、国王派と反乱軍、双方の士気を大きく揺さぶっていった。




