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英雄なのか?  作者: よろず
ノルガルト侯国内戦
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ノルガルト大戦3


最前線では身体強化した兵士たちが盾を押し付け合い、わずか一歩の地面を奪うためだけに全身の力を振り絞る。一人が倒れれば、その穴を埋めるように後列の兵が前へ出る。誰かが胸を貫かれ、誰かが火球に吹き飛ばれる。それでも戦列は崩れず、次の兵が無言で剣を振るった。


頭上では魔導兵同士の撃ち合いが続く。


火球が空で激突し、風刃が互いを切り裂き、岩弾が地面を抉る。何百もの魔法が絶え間なく飛び交い、戦場の空そのものが魔力で震えていた。


右翼では国王派がじりじりと押し返し、反乱軍兵が次々と倒れていく。


その一方で中央では反乱軍の猛攻が続き、兵士たちが激しく命を削り合っていた。左翼では騎兵同士が正面からぶつかり、馬のいななきと悲鳴が入り混じる。落馬した兵士は立ち上がる暇もなく槍に貫かれ、その脇を後続の騎兵が駆け抜けていった。


数万の兵士が激突する戦場では、一人ひとりの死が戦いを止めることはない。


怒号と剣戟、魔法の轟音だけが、大平原を果てしなく埋め尽くしていた。


その均衡が、不意に崩れる。


「どけぇぇぇぇぇッ!」


腹の底まで響くような怒声が左翼戦線へ轟いた。


反乱軍兵が一斉に左右へ飛び退く。


その間を、大柄な男が一直線に駆け抜けた。


全身から溢れる膨大な魔力。


地面を蹴るたび土が弾け、大剣を肩へ担いだまま一直線に国王派の戦列へ突っ込んでくる。


「何だ、あれは……!」


最前列の兵士たちが息を呑む。


次の瞬間、大剣が横薙ぎに振るわれた。


轟音。


大盾ごと数人の兵士が宙を舞い、戦列が大きく抉られる。


さらに一歩踏み込み、今度は振り下ろし。


地面が砕け、衝撃だけで周囲の兵士たちが吹き飛んだ。


「ま、まさか……!」


「超越者だ!」


叫びが左翼戦線を駆け抜ける。


その名を聞いた瞬間、新兵たちの表情から血の気が引いた。


一人の超越者。


それだけで、数百人が支えていた戦線が目に見えて押し込まれていく。


「囲め!」


「魔導隊、集中攻撃!」


隊長の怒号と同時に、数十人の魔導兵が一斉に杖を掲げた。


火球。


風刃。


岩弾。


無数の初級魔法が大男へ降り注ぎ、爆炎が周囲を飲み込む。


激しい爆発が何度も続き、土煙が空高く舞い上がった。


誰もが、その煙を見つめる。


やがて爆煙の奥から、一つの人影がゆっくりと姿を現した。


鎧は煤けている。


だが、その歩みは止まっていない。


「……化け物か。」


誰かが思わず呟いた。


その言葉を否定できる者はいなかった。


左翼戦線が大きく揺らぐ。


本陣からその様子を見つめていたバルドリックは、静かに槍を手に取った。


「ようやく出番か。」


静かな一言だった。


だが、その背中から放たれる圧倒的な威圧感に、周囲の将たちは誰一人として声を掛けられない。


「左翼前線! 道を開けろ!」


将軍の号令が響く。


国王派兵士たちは戦いながら左右へ下がり、一本の道を作った。


その様子を見た反乱軍の超越者も、大剣を肩へ担ぎ直す。


「ようやく来たか。」


振り返ることなく後方へ言い放つ。


「お前たちも下がれ。」


反乱軍兵も即座に距離を取る。


さきほどまで数百人が殺し合っていた場所から兵士たちが潮を引くように離れ、その一角だけが異様な静寂に包まれた。


左右ではなお数万の兵士が激しく戦い続けている。


それでも、この場所だけは別世界だった。


土煙がゆっくりと流れる。


互いの距離、およそ三十歩。


バルドリックは静かに槍を構える。


反乱軍の超越者は大剣を握り、不敵な笑みを浮かべた。


「元元帥バルドリック。」


「若造が……威勢だけは一人前じゃの。」


二人が同時に一歩踏み出した瞬間――。


戦場の空気が、一変した。

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