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英雄なのか?  作者: よろず
ノルガルト侯国内戦
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162/228

広がり


数日後――。


アルゼンハルト辺境伯領を発った伝令は昼夜を問わず街道を駆け抜け、南部諸侯も領地へ戻るや否や、それぞれの領内で王家健在を知らせる布告を次々と発した。


「国王陛下ご健在。」 「王妃殿下、王子殿下、王女殿下もご無事。」


その報は瞬く間に南部各地へ広がっていく。


当初は半信半疑だった領民たちも、領主自らが王家との謁見を語り、王家へ忠誠を誓う騎士たちが各地で声を上げ始めると、疑いは次第に消えていった。


市場では荷を運ぶ商人たちがその話題で持ち切りとなり、酒場では旅人や冒険者が王都の情勢を語り合う。


「国王は生きている。」


その一言は商隊と共に街から街へ、冒険者によって村から村へ運ばれ、やがて中央部、そして反乱軍の支配地域へも少しずつ広がり始めた。


さらに国境を越え、ライゼン自由都市連合、フェルド公国、西側諸国にもその報は届いていく。


ノルガルト侯国は滅んでいない。


王は今なお生きている。


その事実は、多くの者へ希望を与えた。


各地で情勢を見極めていた領主たちも、次々と決断を下す。


「我らは王家へ忠誠を誓う。」


その宣言と共に兵の招集が始まり、閉ざされていた武器庫が開かれる。


王家へ忠義を尽くしてきた騎士たちは再び剣を手に取り、各地の守備隊も王党派へ合流を始めた。


それに呼応するように領民たちも兵糧の運搬や防壁の修復へ協力し、王党派が勢いを取り戻した地域では、街道や小規模な砦を巡る衝突が各地で起こり始める。


侯国各地へ散っていた火種は、ゆっくりと、しかし確実に燃え広がっていった。


一方、その報は反乱軍本陣にも絶え間なく届いていた。


広げられた地図の上には無数の駒が並び、その配置は報告が届くたびに変わっていく。


「東部第三砦、王党派へ寝返りました。」


「南西街道の守備隊も離反。」


「兵糧庫一つを失いました。」


「北部でも王家支持を表明する領主が現れています。」


報告が重なるたび、部屋の空気は重く沈んでいく。


反乱軍は決して勢いだけで決起したわけではなかった。


反乱を主導した宰相は数年前から密かに同志を集め、貴族や軍へ着実に根回しを続けてきた。


そこへカルドニア王国が莫大な軍資金、兵糧、武器を送り込み、さらに軍事顧問や人員まで密かに派遣したことで、ようやく決起へ踏み切ったのである。


兵力は国王派を上回る。


物資も十分。


そして、ノルガルト侯国が擁する四人の超越者のうち三人までもが反乱軍へ加わった。


勝利は揺るがない。


誰もが、そう信じていた。


だが、その前提は音を立てて崩れ始めていた。


王は生きている。


その一報だけで、各地の領主は動き、兵は再び剣を握り、迷っていた者たちが次々と王党派へ集まり始めたのである。


もはや局地戦では終わらない。


王党派と反乱軍。


二つの旗の下へ兵が集まり、各地で軍勢が動き始める。


これまでの戦いは、まだ内乱の序章に過ぎなかった。


ノルガルト侯国全土を巻き込む、本当の戦争が今、幕を開けようとしていた。

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