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英雄なのか?  作者: よろず
ノルガルト侯国内戦
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反撃の狼煙


アルゼンハルト城の大会議室には、朝早くから南部諸侯が続々と集まっていた。


一週間ほど前にも緊急招集を受けたばかりだというのに、再びバルドリックから早馬が走ったのである。前回以上に切迫した文面だったこともあり、誰一人として平静ではいられなかった。


「また急な招集か……。」


席へ腰を下ろした伯爵が小さく息を吐く。


「昨夜、城内が慌ただしかったと聞いた。」


隣の侯爵も声を潜めた。


「見張りの兵まで増えていたそうだ。何も起きていなければよいが……。」


「今の状況で、その願いは少々贅沢でしょうな。」


苦笑とも諦めともつかない声が返る。


王都陥落からまだ日が浅い。


各領では兵の再編や避難民への対応に追われ、誰もが寝る間も惜しんで動いていた。そんな最中に再び招集された以上、良い知らせであるはずがなかった。


やがて重厚な扉が静かに開く。


談笑していた諸侯は一斉に口を閉ざし、その視線が入口へ集まった。


先頭を歩くのはアルゼンハルト辺境伯バルドリック。


その後ろにはルークが続く。


さらに数人の護衛が姿を現したところで、最前列に座っていた老侯爵が思わず目を見開いた。


「……陛下。」


その一言が静まり返った会議室へ広がる。


姿を現したのは、ノルガルト侯国国王だった。


その後に王妃たち、王子、王女が続く。


一瞬、誰も言葉を失う。


次の瞬間、椅子が一斉に引かれ、諸侯は立ち上がった。


「ご無事だったのですか……。」


「陛下……。」


感極まったように目を潤ませる老貴族もいた。


王都陥落の報が届いて以来、多くの者は王家もすでに反乱軍へ囚われたか、あるいは命を落としたものと覚悟していたのである。


その王家が、今こうして目の前に立っている。


それだけで、諸侯たちの胸には消えかけていた希望の灯が再びともった。


国王は静かに右手を上げた。


「皆、顔を上げてくれ。」


その一言だけで、会議室は再び静けさを取り戻す。


国王は一人ひとりの顔を見渡し、穏やかな口調で続けた。


「諸君が王家のため、そしてノルガルト侯国のために尽力してくれていることは、ここへ来るまでの道中でも十分伝わってきた。」


「まずは礼を言う。」


深々と頭を下げることはない。


それでも、その言葉には王としての真摯な感謝が込められていた。


「しかし、再会を喜ぶのは国を取り戻してからでよい。」


その一言で、諸侯たちの表情が引き締まる。


今は感傷へ浸る時ではない。


王都はなお反乱軍の手にあり、この国は今も内乱の最中にあるのだ。


国王が一歩下がると、入れ替わるようにバルドリックが前へ出た。


「まず昨夜の件を報告する。」


静かに告げると、隣に立つルークへ視線を向ける。


ルークは一歩前へ進み、会議室全体を見渡した。


「昨夜、王家を狙った暗殺者三名が城内へ侵入しました。」


その一言だけで会議室がざわめく。


「三名とも生け捕りにしております。」


「尋問の結果、依頼主は南部貴族ドレ子爵。」


会議室の空気が一変した。


ルークは淡々と報告を続ける。


「反乱軍は王家一人につき多額の報奨金を掛けていました。」


「ドレ子爵は、その報奨金を目当てに暗殺者を雇い、この城へ王家がおられるという噂を頼りに犯行へ及んだと供述しております。」


短い報告だった。


しかし、その内容は十分すぎるほど重い。


バルドリックは静かに口を開く。


「……やはり、南にも反乱軍へ通じる者がおったか。」


老人は地図の前へ歩み寄り、集まった諸侯をゆっくりと見渡した。


「では始めよう。」


「ここから先は、ノルガルト侯国を取り戻すための戦いについて話す。」


バルドリックは壁一面の地図へ静かに手を置く。


「諸君らも承知しておるように、王都はなお反乱軍の手にある。」


落ち着いた声が会議室へ響く。


「各地でも大小の戦が続き、王家が滅んだという噂まで広がっておる。民だけではない。兵の間にも不安が広がり、このまま時が過ぎれば、王家へ忠義を尽くしてきた者たちの心まで折れかねん。」


諸侯は誰一人として口を挟まない。


兵は武器や兵糧だけで戦うものではない。


希望を失えば、どれほど精強な軍でも崩れることを誰もが知っていた。


バルドリックは国王へ一礼すると、再び諸侯へ向き直る。


「そこで、本日集まってもらった最大の理由がこれじゃ。」


老人は一人ひとりの顔を見渡した。


「陛下はご健在である。」


「王妃殿下も、王子殿下も、王女殿下もご無事じゃ。」


「この事実を、諸君ら自身の口で各領へ伝えてもらいたい。」


会議室の空気が大きく動く。


「噂はいずれ国中へ広がる。」


「ならば、その噂を我らが先に広げる。」


「王は生きておられる。」


「王家は健在である。」


「その事実だけで、絶望していた兵は再び剣を握る。」


「進退を迷っておる諸侯も決断するじゃろう。」


「そして何より、領民は希望を取り戻す。」


しばしの静寂の後、老侯爵が静かに立ち上がった。


「承知いたしました。」


その声に続き、伯爵、侯爵、将軍たちが次々と頷く。


「領へ戻り次第、直ちに触れを出します。」


「兵にも領民にも、一日でも早く伝えましょう。」


「王家がご健在であると知れば、各地で立ち上がる者も必ずおります。」


力強い返答が会議室へ広がっていく。


その様子を見つめながら、国王は静かに頷いた。


「皆に頼みたい。」


「今は、それぞれの領を守ってほしい。」


「この国は、まだ終わってはいない。」


飾らないその言葉は、不思議なほど重みを持って諸侯の胸へ響いた。


バルドリックは満足そうに一つ頷く。


「この日をもって、王家健在の報を南部全域へ広める。」


「剣を交える前に勝敗を決める戦もある。」


老人は力強く言い切った。


「これが――反乱軍への最初の反撃じゃ。」

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