表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄なのか?  作者: よろず
アルディア騎士学校
16/34

総括


「夜間奇襲訓練終了だ」

バルトの低い声が野営地へ響いた。

その一言で張り詰めていた空気が切れた。

皆その場へ座り込み、誰かが大きく息を吐く。剣を握ったまま空を見上げる者もいた。魔物の群れは消えた。夜の森には再び虫の声が戻り始めている。

だが生徒達の表情に安堵はあっても、余裕はなかった。

先ほどまで確かに戦っていたのだ。

訓練だと分かった今でも、腕に残る痺れも、剣を振り続けた疲労も消えてはいない。

バルトはそんな生徒達をしばらく眺めていた。

「全員集まれ」

生徒達は重い足を引きずりながら集合する。

周囲には防衛線として組んでいた荷馬車が並び、地面には無数の足跡が刻まれていた。戦いの痕跡だけが夜の闇の中に残っている。

全員が集まったことを確認すると、バルトはゆっくりと口を開いた。

「まず結果から言う」

自然と全員の視線が集まる。

「よく耐えた」

その言葉に何人かがほっとした顔を見せる。

バルトは冷静に続けた。

「だが実戦なら三回は全滅している」

その一言で空気が変わった。

バルトは防衛線だった場所を指差す。

中央付近。

ワル達が守っていた辺りだった。

「最初の突撃で押し込まれた」

次は左翼。

「ここは連携不足だ。横を見られていない」

さらに右翼。

「魔法組の支援が遅れた」

バルトは一つ一つ説明していく。

ただ怒鳴るだけではなくぜなぜ危険だったのか、なぜ崩れかけたのか、どうすれば防げたのか。それを順番に話していく。

生徒達も真剣に聞いていた。

自分達も気付いていたからだ。防衛線は何とか守れた、だが余裕など一度もなかった。

「訓練場の試合と実戦は違う」

バルトは言う。

「目の前の敵だけ見ていればいい戦場など存在しない。横を見ろ。後ろを見ろ。仲間を見ろ」

その言葉に多くの生徒が黙って頷いた。

実際に今日の戦いで何度も感じ体験したことだった。

一体を相手にしている間に別の魔物が現れる、隣が押されれば自分も危険になる。

一人では守れない。

だから防衛線は確かな連携が必要なのだ。

「アルベルト」

「はい」

アルベルトが前へ出る。

「指揮は悪くなかった」

その言葉に周囲の生徒達も納得したように頷いた。

今日の戦いで最も声を出していたのはアルベルトだった。

「中央だけでなく左右もよく見ていた。魔法組との連携も取れていた」

そこまでは評価だった。

「だが判断が遅れた場面もある」

アルベルトの表情が引き締まる。

「……はい」

「次は迷うな」

「了解しました」


バルトの目が一瞬だけレインを捉える。

「それと、崩れかけた場所へたびたび入った者がいた」

レインは表情を変えなかった。

「防衛線は強い者だけでは維持できん」

バルトは静かに言う。

「穴を埋める者がいるから耐えられる」

それだけだった。

だがアルベルトは理解した。

あの言葉が誰へ向けられたものなのか。

レインも理解していた。

しかし何も言わない。

バルトは最後に全員を見回した。

「今日の訓練は魔物を倒すためのものではない、戦場では一人で敵を数十体倒すより、十人が一歩も退かない方が価値を持つ時がある」

その言葉は重かった。バルト自身が騎士団で経験してきたのだろう。

「解散だ。今日はよくやった」

緊張が解ける。

生徒達はそれぞれの持ち場へ戻り始めた。

怪我人の確認。回復魔法が得意な者が走り回ってる

見張りの交代に魔物の死体処理。

訓練は終わったが、夜はまだ続いている。

レインも手伝いを終えた後、一人で少し離れた場所へ歩いた。

森の外れ。

焚き火の明かりが届かない場所だった。

夜風が心地いいなようやく静かになったそう思った時だった。

「ここにいたか」

聞き覚えのある声がした。

アルベルトだった。

二人の間に少しだけ沈黙が落ちる。

やがてアルベルトは隣へ並んだ。

「今日は助かった」

レインは肩をすくめる。

「何の話?」

「何度も防衛線を支えていただろう」

「偶然だね」

「偶然が何度も続くか?」

レインは少し困ったような顔をする。

「たまたま危なそうだったから動いただけ」

「そういうことにしておく」

アルベルトは深追いしなかった。

しばらく沈黙が続く。やがてアルベルトが口を開く。

「なぜ実力を隠すんだい?」

レインは内心でため息をついた。

やはり来たか。

「面倒だから」

「それだけなの?」

「それだけ」

レインは空を見上げる。

「平民が目立っても良いことないだろ、貴族に絡まれるしトラブルの元だ。今くらいが楽なんだよ」

半分は本音だった。半分は嘘だった。

アルベルトは黙って聞いている。

「俺は普通に卒業したいだけ」

レインはそう言って笑った。

だがアルベルトは首を振る。

「無理だな」

即答だった。

「ひどいな」

「今日見て確信した」

アルベルトは森の闇を見る。

「最近、他国の情勢がきな臭い。伯爵家にもそんな情報が来ている」

「国境の小競り合い」

「隣国の軍備拡張」

「大規模魔法の研究開発」

風に乗り焚き火の匂いが微かに流れてきた。

「アルディア王国も動いている」

アルベルトは続ける。

「騎士団の再編も始まるだろう。だから父上から言われた」

レインは横を見る。

アルベルトは静かに答えた。

「学生のうちから人材を見極めろ、と」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ