表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄なのか?  作者: よろず
アルディア騎士学校
PR
14/212

防衛戦


森の闇が、揺れた。


 次の瞬間、木々の隙間に無数の赤い瞳が灯る。


 一つや二つではない。


 闇そのものが動き出したかのように、数え切れない魔物たちが唸り声を上げ、一斉に野営地へ雪崩れ込んできた。


「来るぞ……!」


 誰かが漏らした声は、直後に響いた獣の咆哮へかき消された。


 群れを成した魔物と正面から戦った経験など、生徒たちにはほとんどない。


 昼間、訓練の中で目にする魔物とは、まるで別物だった。


 深夜の森。


 逃げ場の見えない暗闇。


 木々の間を埋め尽くす無数の影。


 先頭の個体が倒れようと構わず、後続がその背を踏み越え、押し潰すように前へ出てくる。


 それはもはや生き物の群れではない。


 野営地を呑み込もうと迫る、黒い濁流だった。


 だが、その濁流を前にしても、アルベルトは一歩も退かなかった。


「魔法組、前へ!」


 鋭い号令が、夜の森を貫く。


「接敵前に数を削る!」


 その声に弾かれるように、魔法を得意とする生徒たちが前へ出た。


 誰もが緊張で顔を強張らせている。


 杖を握る手は震え、呼吸も浅い。


 それでも足を止める者はいなかった。


 並んだ生徒たちが一斉に魔力を練り上げる。


 夜の闇へ、幾重もの魔法陣が浮かび上がった。


 火。


 風。


 光。


 それぞれ異なる色を放つ魔法陣が、野営地の前方を照らしていく。


 その間にも、魔物との距離はみるみる縮まっていた。


 地面を蹴る音。


 枝の折れる音。


 喉の奥から響く唸り声。


 全てが重なり合い、迫ってくる。


 焦りから詠唱を噛む者もいた。


 魔力の制御が乱れ、魔法陣が揺らぐ者もいる。


 それでも、誰一人として術を解かなかった。


「放て!」


 アルベルトの号令と同時に、数十の魔法が夜空へ放たれた。


 火球が尾を引き、光弾が一直線に闇を裂く。


 風の刃が木々を大きく揺らし、土塊が轟音とともに群れへ突き刺さった。


 直後。


 激しい爆発が、夜の森を昼間のように照らし出した。


 先頭を走っていた魔物たちが、まとめて宙へ舞う。


 炎に呑まれ、風刃に切り裂かれ、地面へ叩きつけられていく。


 土煙が巻き上がった。


 肉片が飛び散り、焦げた臭いが夜風に混じる。


 だが、それでも群れは止まらなかった。


 倒れた魔物を後続が踏み越え、その向こうから新たな影が次々と姿を現す。


 確かに数は減った。


 それでも、押し寄せる勢いは少しも衰えていない。


「まだ来る!」


 恐怖の混じった声が上がる。


「第二射、急げ!」


 アルベルトの声が、広がりかけた動揺を即座に断ち切った。


 魔法組が我に返る。


 一度目よりも早く杖を構え、再び魔力を練り上げていく。


 恐怖は消えていない。


 手の震えも止まってはいない。


 それでも、身体はこれまで積み重ねてきた訓練を覚えていた。


 魔法陣が次々と展開される。


「放て!」


 二度目の一斉射。


 閃光が夜を白く染めた。


 続いて爆炎が広がり、森全体が震えるほどの轟音が響き渡る。


 魔物の群れは再び大きく削られ、何体もの影が吹き飛んだ。


 それでも、完全には止め切れない。


 生き残った魔物たちが土煙を突き破り、ついに野営地の目前まで迫ってきた。


 鋭い牙が覗く。


 振り上げられた爪が、月明かりを反射する。


 獣臭い息遣いが風に乗り、生徒たちの肌を刺した。


 アルベルトは静かに剣を抜いた。


 鋼が鞘を離れる音が、騒音の中でも不思議なほど鮮明に響く。


「前衛、抜刀」


 短い命令に、ワルが真っ先に一歩前へ出た。


 迷いなく剣を抜き、その刃へ魔力を流し込む。


 隣にはガレン。


 さらに前衛を任された生徒たちが次々と並び、野営地の前へ横一列の防衛線を作っていく。


 誰の顔にも恐怖はあった。


 目の前には、今にも飛びかかってきそうな魔物の群れ。


 少しでも気を抜けば、牙や爪が身体へ届く距離だった。


 それでも、退く者は一人もいない。


 背後には、魔法を放った仲間たちがいる。


 荷馬車がある。


 テントの中には、まだ武器を取れていない者もいる。


 自分たちがここを抜かれれば、その全てが魔物の群れへさらされる。


 だから、この一線だけは譲れない。


 アルベルトは迫り来る群れを真っ直ぐ見据え、剣先を前へ向けた。


「ここが最終防衛線だ」


 低く、それでいて全員へ届く声だった。


「一体たりとも通すな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ