行方不明
宿を出ると、朝の陽射しが石畳を明るく照らしていた。
世界商談会の開催中ということもあり、大通りは朝から多くの人で賑わっている。荷馬車が絶え間なく行き交い、商人たちは今日の商談へ向かって足早に歩いていく。その間を護衛の冒険者や各国の使節団が行き交い、街全体が慌ただしく動き続けていた。
レインは周囲へさりげなく視線を巡らせた。
「まずはベルグ商会ですね。」
「ガストンさんなら、私たちより早く情報を掴んでいるかもしれません。」
エレアの言葉にレインも頷く。
「商人の情報網は侮れません。」
二人は人波を縫うように歩き、ベルグ商会へ入った。
受付の職員は二人の姿を見るとすぐに頭を下げる。
「レイン様、エレア様。商団長がお待ちしております。」
「……もう来ることを予想されていたんですね。」
「はい。そのまま応接室へお通しするよう申し付かっております。」
案内された二人は見慣れた応接室へ入る。
「来たか。」
窓際へ座るガストンは、穏やかに笑った。
しかし、その表情には疲労の色が滲んでいる。
「まずは座りなさい。」
二人が腰を下ろすと、ガストンは使用人を下がらせた。
扉が閉まり、部屋には三人だけとなる。
しばらく沈黙が流れたあと、ガストンが静かに切り出した。
「実は、お前さん達へ頼みがある。」
レインも視線を合わせる。
「その前に一つ、お聞きしたいことがあります。」
「……ノルガルト侯国じゃな。」
レインは静かに頷いた。
「何かご存じなのですか。」
ガストンは深く息を吐いた。
「昨夜、ノルガルト王女殿下が滞在していた屋敷で戦闘が起きた。」
部屋の空気が張り詰める。
「賊の襲撃ではない。」
「護衛同士が斬り合った。」
エレアが小さく目を細めた。
「護衛が裏切った……。」
「そうじゃ。」
ガストンは頷く。
「護衛隊の半数が突然王女殿下達を拘束しようと動き、残る半数がそれを阻止した。屋敷の中で戦闘になり、その隙に王女殿下と子ども達は逃げ出したそうじゃ。」
「現在は。」
「行方不明じゃ。」
短い一言だった。
「衛兵も、わしら商人も探しとる。じゃが足取りは掴めん。」
レインは静かに尋ねる。
「裏切った護衛は。」
「全員ノルガルトから同行してきた者達じゃ。王家へ長年仕えていた者もおる。」
その言葉だけで十分だった。
侯国内で起きた反乱は、王都だけでは終わっていない。
王家の護衛にまで及んでいる。
レインは机へ置かれた地図へ目を落とした。
「……状況は想像以上ですね。」
「じゃからこそ、お前さん達へ頼みたい。」
ガストンは真っ直ぐ二人を見る。
「王女殿下達を探してほしい。」
「衛兵は門や街道を探し、商人は宿や倉庫を当たっとる。じゃが、お前さん達なら商人や衛兵とは違う目で見られるはずじゃ。」
レインとエレアは視線を交わした。
二人にとって、それはガストンからの依頼であると同時に、第七騎士団から与えられた任務とも一致していた。
レインは静かに頷く。
「分かりました。」
「まずは王女殿下達と接触します。」
その返事を聞いたガストンは、小さく安堵の息を漏らした。
「頼んだぞ。」
世界商談会の熱気に包まれたライゼン。
その賑わいの裏で、ノルガルト侯国の命運を左右する捜索が、静かに始まろうとしていた。




