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英雄なのか?  作者: よろず
ノルガルト侯国内戦
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137/212

行方不明


宿を出ると、朝の陽射しが石畳を明るく照らしていた。


世界商談会の開催中ということもあり、大通りは朝から多くの人で賑わっている。荷馬車が絶え間なく行き交い、商人たちは今日の商談へ向かって足早に歩いていく。その間を護衛の冒険者や各国の使節団が行き交い、街全体が慌ただしく動き続けていた。


レインは周囲へさりげなく視線を巡らせた。


「まずはベルグ商会ですね。」


「ガストンさんなら、私たちより早く情報を掴んでいるかもしれません。」


エレアの言葉にレインも頷く。


「商人の情報網は侮れません。」


二人は人波を縫うように歩き、ベルグ商会へ入った。


受付の職員は二人の姿を見るとすぐに頭を下げる。


「レイン様、エレア様。商団長がお待ちしております。」


「……もう来ることを予想されていたんですね。」


「はい。そのまま応接室へお通しするよう申し付かっております。」


案内された二人は見慣れた応接室へ入る。


「来たか。」


窓際へ座るガストンは、穏やかに笑った。


しかし、その表情には疲労の色が滲んでいる。


「まずは座りなさい。」


二人が腰を下ろすと、ガストンは使用人を下がらせた。


扉が閉まり、部屋には三人だけとなる。


しばらく沈黙が流れたあと、ガストンが静かに切り出した。


「実は、お前さん達へ頼みがある。」


レインも視線を合わせる。


「その前に一つ、お聞きしたいことがあります。」


「……ノルガルト侯国じゃな。」


レインは静かに頷いた。


「何かご存じなのですか。」


ガストンは深く息を吐いた。


「昨夜、ノルガルト王女殿下が滞在していた屋敷で戦闘が起きた。」


部屋の空気が張り詰める。


「賊の襲撃ではない。」


「護衛同士が斬り合った。」


エレアが小さく目を細めた。


「護衛が裏切った……。」


「そうじゃ。」


ガストンは頷く。


「護衛隊の半数が突然王女殿下達を拘束しようと動き、残る半数がそれを阻止した。屋敷の中で戦闘になり、その隙に王女殿下と子ども達は逃げ出したそうじゃ。」


「現在は。」


「行方不明じゃ。」


短い一言だった。


「衛兵も、わしら商人も探しとる。じゃが足取りは掴めん。」


レインは静かに尋ねる。


「裏切った護衛は。」


「全員ノルガルトから同行してきた者達じゃ。王家へ長年仕えていた者もおる。」


その言葉だけで十分だった。


侯国内で起きた反乱は、王都だけでは終わっていない。


王家の護衛にまで及んでいる。


レインは机へ置かれた地図へ目を落とした。


「……状況は想像以上ですね。」


「じゃからこそ、お前さん達へ頼みたい。」


ガストンは真っ直ぐ二人を見る。


「王女殿下達を探してほしい。」


「衛兵は門や街道を探し、商人は宿や倉庫を当たっとる。じゃが、お前さん達なら商人や衛兵とは違う目で見られるはずじゃ。」


レインとエレアは視線を交わした。


二人にとって、それはガストンからの依頼であると同時に、第七騎士団から与えられた任務とも一致していた。


レインは静かに頷く。


「分かりました。」


「まずは王女殿下達と接触します。」


その返事を聞いたガストンは、小さく安堵の息を漏らした。


「頼んだぞ。」


世界商談会の熱気に包まれたライゼン。


その賑わいの裏で、ノルガルト侯国の命運を左右する捜索が、静かに始まろうとしていた。

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