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英雄なのか?  作者: よろず
アルカディア騎士編
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132/212

解決した?


宿屋の扉を開けると、グラディウスも一緒に外へ出てきた。


「気を付けて行け。」


それだけ言って腕を組む。


レインは軽く頭を下げた。


「夕方には戻ります。」


「ああ。」


短いやり取りを終え、四人は歩き出した。


ガストンから頼まれたことは一つだけだった。


商会街を見て回り、異変があれば対処する。それ以上でも、それ以下でもない。


「どこから見て回りますか?」


イリシアが尋ねる。


レインは少し考え、エレアへ視線を向けた。


「表通りより裏手の方が何か分かる気がします。」


「私も同じ考えです。」


エレアは迷わず頷いた。


「商談は表で行われますが、荷物や帳簿、人の出入りは裏口を使う商会も少なくありません。様子を見るなら、こちらの方が自然でしょう。」


「では、そのように。」


四人は表通りを離れ、商会街の裏手へ足を向けた。


こちらまで来ると、人通りは一気に少なくなる。


荷車が一台通れるほどの道が真っ直ぐ伸び、両側には商会の裏口や倉庫が並んでいた。荷役たちが忙しそうに木箱を運び、帳簿を抱えた商人が足早に行き交っている。祭りの華やかさとは対照的に、ここには商業都市ライゼンの日常が息づいていた。


「思ったより静かですね。」


「商売の裏側ですから。」


エレアが答えた、その時だった。


鈍い音が路地の奥から響く。


続いて、苦しげなうめき声。


四人は無言で顔を見合わせた。


レインは頷き、足音を殺して建物の角へ寄る。


そっと先を覗くと、一人の商人が壁際へ追い詰められていた。


向かい合う黒い外套の男は二人。


剣は抜いていない。


だが、その視線は獲物を逃がさぬ獣そのものだった。


「……最後にもう一度だけ聞く。」


低い声が路地へ響く。


「帳簿はどこへ隠した。」


商人は青ざめた顔で首を振る。


「し、知らない……私は何も——」


言葉の途中で拳が腹へめり込んだ。


商人は苦鳴を漏らして膝をつく。


さらに黒衣の男が腰の短剣へ手を掛けた。


その瞬間だった。


レインは静かに前へ出る。


「そこまでです。」


二人が同時に振り返る。


迷いはなかった。


短剣を抜き放ち、一気に商人へ飛び掛かる。


だが、その刃は届かない。


レインが一人目の腕を払い上げ、そのまま肘を打ち込む。


「ぐっ!」


男が体勢を崩したところへ、返す足で二人目のみぞおちを蹴り抜く。


「がはっ!」


吹き飛ばされた男が石畳へ転がる。


さらにレインは踏み込み、一人目の首筋へ手刀を打ち込んだ。


男はその場へ崩れ落ち、意識を失う。


決着は十秒とかからなかった。


「すごい……。」


イリシアが思わず声を漏らす。


隣のリーヴェだけは静かに目を細めていた。


(抜剣すら必要ないと判断したのですね。)


倒れた二人は短剣を手放したまま動かない。


レインはそのまま商人へ歩み寄る。


「怪我はありませんか。」


「あ、ああ……助かった……。」


商人は震えながら何度も頷いた。


その時だった。


エレアが路地の奥へ視線を向ける。


「レイン。」


その一言でレインも振り返る。


建物の陰に、一人の男が立っていた。


黒い外套をまとい、倒れた仲間を無言で見つめている。


助けようとはしない。


しばらく立ち尽くした後、静かに踵を返し、そのまま路地の奥へ姿を消した。


レインは追わなかった。


ガストンから受けた依頼は、犯人を追うことではない。


被害を防ぐこと。


それが最優先だった。


レインは足元へ転がる短剣を拾い上げる。


刃は黒く染められ、柄には見慣れない刻印が彫られていた。


「見慣れない紋章ですね。」


エレアは短剣へ目を落とす。


「少なくとも西部方面では見たことがありません。」


リーヴェも静かに頷いた。


「帝国でも見覚えはありません。」


その間に商人はようやく立ち上がった。


「本当に……助かりました。」


レインは穏やかに尋ねる。


「狙われる心当たりはありますか。」


商人は力なく首を横へ振る。


「分からない……私は金融業を営んでいるだけだ。商談会が近いこの時期は毎日忙しいが、恨まれるような覚えはない。」


レインとエレアは小さく視線を交わした。


本人も理由を知らないらしい。


その時だった。


表通りの方から慌ただしい足音が近付いてくる。


「こっちだ!」


「悲鳴が聞こえたぞ!」


数人の衛兵が路地へ駆け込んできた。


隊長格らしい男は倒れた黒衣の二人を見るなり目を見開く。


「これは、お前たちが?」


「襲われていた方を助けました。」


レインが簡潔に答えると、隊長は安堵したように息を吐いた。


「間に合ってよかった。」


すぐに部下へ命じる。


「二人を拘束しろ! 周囲も警戒だ!」


衛兵たちは手際よく黒衣の男たちを縛り上げていく。


隊長は商人の顔を確認すると表情を引き締めた。


「この方はアルヴェシオン商会と取引のある金融商だ。」


「命を落としていれば、大問題になるところだった。」


その言葉を聞き、レインたちは静かに顔を見合わせる。


また一人、金融に関わる商人が狙われた。


ガストンが危惧していた事態は、確実にライゼンの街で進行していた。

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