見つけた!
夕方。
西日が東区の路地を赤く染め始めた頃、静まり返っていた建物の外から足音が近づいてきた。
一人ではない。
複数人だ。
レインは窓の隙間から外を確認し、小さく呟く。
「来ました。」
エレアも静かに頷き、扉の脇へ身を寄せる。
拘束された男たちは、その足音を聞いた瞬間に表情を強張らせた。
やがて扉の前で足音が止まる。
「今日は静かだな。」
男の声とともに扉が開いた。
部屋へ入ってきたのは三人。
腰には剣を下げ、慣れた様子で室内を見回している。
「回収に来──」
言葉は途中で止まった。
縄で拘束された仲間たち。
部屋の中央に立つ見知らぬ男女。
状況を理解した男は反射的に剣へ手を伸ばえる。
しかし、その時にはレインが懐へ入り込んでいた。
鳩尾へ打ち込まれた一撃で男は息を詰まらせ、その場へ崩れ落ちる。
ほぼ同時にエレアも動く。
剣を抜こうとした男の手首を払うと、その勢いのまま首筋へ手刀を落とした。
男は一声も上げられず床へ倒れる。
残る一人は踵を返して逃げようとした。
だが扉へ辿り着くより早くレインが肩を掴み、そのまま床へ押さえ込む。
抵抗は一瞬だった。
三人は縄で拘束され、部屋には再び静けさが戻る。
レインは最後の男を椅子へ座らせると、静かに口を開いた。
「少し、お話を聞かせていただきます。」
男は睨み返したまま黙り込む。
レインはエレアへ視線を送った。
エレアは何も言わず、一歩前へ出る。
その瞬間。
室内の空気が凍り付いた。
肌を刺すような覇気が男たちへ降りかかる。
「ぐっ……!」
拘束された男たちの身体が一斉に震え始めた。
回収役の三人も顔色を失い、呼吸が乱れる。
その中の一人は耐え切れず白目を剥き、そのまま床へ倒れ込んだ。
残る二人も歯を鳴らしながら必死に耐えている。
「ま、待ってくれ……!」
「話す! 全部話す!」
覇気が収まると同時に、男たちは堰を切ったように叫び始めた。
レインは落ち着いた声で尋ねる。
「盗品は、この後どこへ運ぶ予定でしたか。」
「東区外れの倉庫だ!」
男は荒い息を吐きながら答える。
「あそこは盗品を一度集める中継場所なんだ!」
「その先は。」
「知らねぇ! 本当だ!」
「俺たちは倉庫へ運ぶだけだ!」
レインは男たちの表情を静かに見つめる。
嘘をついている様子はない。
「東区外れの中継倉庫ですね。」
「はい。」
エレアも静かに頷いた。
レインは拘束された男たちへ視線を向ける。
「一つだけ伝えておきます。」
男たちはびくりと肩を震わせた。
エレアが静かに前へ出る。
「今見たことは忘れなさい。」
穏やかな声だった。
だが、その言葉だけで男たちの表情は凍り付く。
「衛兵には、あなたたちが油断していたところを捕らえられた、とだけ話しなさい。」
男たちは何度も頷く。
「わ、分かった!」
「油断しただけだ!」
「何も見てねぇ!」
エレアは男たちを静かに見下ろした。
「余計なことを口にすれば……次はありません。」
その一言だけで十分だった。
男たちは青ざめたまま何度も首を縦へ振る。
レインは小さく息を吐いた。
「では、私は衛兵を呼んできます。」
「ここは私が見ています。」
「お願いします。」
レインは建物を出ると、東区の衛兵詰所へ向かった。
事情を聞いた衛兵隊長は、すぐに十名ほどの衛兵を率いて現場へ向かう。
建物へ入った隊長は、積み上げられた盗品を見た瞬間に目を見開いた。
「……これは。」
財布、装飾品、宝石、金貨。
壁際には木箱いっぱいの盗品が積まれている。
「何十件分あるんだ……。」
隊長は息を吐くと、すぐに部下へ命じた。
「犯人を確保しろ! 盗品は一点ずつ確認する! 被害届との照合を急げ!」
衛兵たちは手際よく動き始める。
男たちは一人ずつ建物の外へ連行され、盗品も順番に運び出されていった。
隊長はレインたちへ向き直る。
「二人とも感謝する。これだけの盗品が戻れば、多くの被害者が救われる。」
「依頼を遂行しただけです。」
レインが静かに答えると、隊長は満足そうに頷いた。
「後はこちらで引き継ぐ。冒険者ギルドへも報告しておこう。」
「よろしくお願いします。」
現場を衛兵へ任せた二人は、夕暮れの東区を後にした。
酒場には灯りがともり、歓楽街には昼以上の人波が集まり始めている。
その喧騒を横目に歩き続けると、やがて冒険者ギルドが見えてきた。
扉を開くと、受付嬢は二人の姿を見るなり笑顔を浮かべる。
「お帰りなさいませ。依頼はいかがでしたか。」
レインは革財布を受付へ差し出した。
「依頼は完了しました。盗品の集積場所を発見し、犯人は衛兵へ引き渡しています。」
受付嬢は驚いた表情で財布を確認し、依頼書へ完了印を押した。
「確認いたしました。依頼達成です。本日はありがとうございました。」
そう言って一礼すると、何かを思い出したように顔を上げる。
「それと先ほど、衛兵の方から連絡がございました。」
「副支部長がお二人へ直接お礼を申し上げたいそうです。お時間をいただいてもよろしいでしょうか。」
「もちろんです。」
「ありがとうございます。こちらへどうぞ。」
受付嬢に案内され、二人は一般の冒険者が立ち入ることのない通路を進んでいく。
廊下の突き当たりで受付嬢は立ち止まり、重厚な木製の扉を軽く叩いた。
「副支部長、お二人をお連れしました。」
室内から落ち着いた声が返ってくる。
「入ってもらってくれ。」
レインとエレアは静かに視線を交わすと、ゆっくりと副支部長室の扉を開いた。




