盗品は?
拘束を終えたレインは、改めて室内を見渡した。
机の上には財布や装飾品、宝石、小袋に入った金貨が無造作に積まれ、壁際には盗品を詰め込んだ木箱が並んでいる。
依頼の一件だけで集まる量ではない。
この建物が盗品の集積場所として使われていることは明らかだった。
「依頼の品は後で確認しましょう。」
「はい。」
エレアが頷く。
レインは拘束した男たちへ視線を向けた。
「全員起こします。」
意識を失っていた男たちは、水を掛けられ、肩を揺すられながら次々と目を覚ましていく。
最初は何が起きたのか理解できず辺りを見回していたが、自分たちが縄で縛られていることに気付いた瞬間、その表情は怒りへ変わった。
「てめぇら……!」
「何しやがった!」
「縄を解きやがれ!」
一人が唾を吐き捨てる。
「ここが東区だって分かってんのか! 俺たちに手を出して無事で済むと思うな!」
別の男も怒鳴り声を上げた。
「今なら見逃してやる! さっさと消えろ!」
威勢だけは良かった。
東区では自分たちの後ろにいる存在が絶対だと信じているのだろう。
口々に罵声を浴びせ、必死に虚勢を張っている。
その様子を、レインは何も言わず見つめていた。
やがて隣に立つエレアが、一歩だけ前へ出る。
次の瞬間だった。
凍てつくような覇気が、音もなく室内を支配した。
空気が一変する。
まるで極寒の湖へ投げ込まれたような錯覚に襲われ、男たちの顔から一瞬で血の気が失せた。
「ぐっ……!」
一人が膝から崩れ落ちる。
別の男は何かを叫ぼうと口を開いた。
しかし声にならない。
喉が震え、呼吸は乱れ、焦点の合わなくなった瞳が大きく揺れる。
次の瞬間、白目を剥き、そのまま床へ倒れ込んだ。
残った男たちも同じだった。
歯の噛み合うおとが常に聞こえ、額からは滝のような汗が流れ落ちる。
胸を押さえ、必死に息を吸おうとしても身体が言うことを聞かない。
さっきまで怒鳴っていた男たちは、ただ震えながらエレアを見上げることしかできなかった。
その姿は、まるで死を目前にした獣そのものだった。
「や、やめてくれ……。」
「頼む……助けてくれ……。」
「殺さないでくれ……!」
誰一人として反抗する気力は残っていない。
部屋を支配していたのは、恐怖だけだった。
レインは静かに男たちの前へ歩み寄る。
「では、質問します。」
その一言だけで十分だった。
「しゃ、喋る!」
「全部話す!」
「頼む! あの人を止めてくれ!」
男たちは我先にと叫び始める。
レインは騒ぐ男たちを一瞥すると、その中で最も怯えた表情を浮かべている男の前にしゃがみ込んだ。
「あなたに聞きます。」
男は何度も首を縦へ振る。
「盗品は、誰が回収に来ますか。」
「お、俺たちは盗むだけなんだ!」
男は震える声で答えた。
「夕方になると使いが来る! 盗品を渡して金を受け取るだけだ!」
「使いとは誰ですか。」
「し、知らねぇ!」
男は涙を浮かべながら首を横へ振る。
「名前も知らねぇ! 本当なんだ!」
「俺たちは命令どおり盗んで、この場所へ運ぶだけなんだ!」
「他には。」
「それ以上は何も知らねぇ……!」
周囲の男たちも必死に頷く。
誰一人として違うことを言わない。
レインは静かに立ち上がった。
「末端構成員ですね。」
「ええ。」
エレアも頷く。
「組織の全体像までは知らされていないのでしょう。」
それでも十分だった。
東区では盗品が個人で売り払われることはない。
一度この拠点へ集められ、夕方になると回収役が現れる。
そこから先は、組織が一括して流通させているのだ。
レインは窓から差し込む陽光へ目を向けた。
まだ昼を少し回ったばかりだった。
「夕方まで待ちます。」
「回収役を追えば、この先へ進めそうですね。」
エレアは小さく頷いた。
「そうですね」
二人は盗品の山が積まれた室内で、静かに回収役を待つことにした。




