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英雄なのか?  作者: よろず
アルカディア騎士編
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115/212

東区へ


依頼書を受け取ったレインは軽く目を通すと、それを折り畳んで懐へしまった。


「それでは行ってきます。」


「お気を付けて。」


二人が外へ出ると、昼の陽射しは朝より一段と強さを増していた。


それでも街の熱気は衰えるどころか勢いを増している。大通りには荷馬車が何台も連なり、商人たちは忙しなく行き交い、護衛の冒険者たちは依頼主とともに目的地へ向かっていた。


「行きましょう。」


「はい。」


二人は人波へ紛れるように東区へ向かう。


歩みを進めるにつれ、街並みは少しずつ姿を変えていった。


大商会の建物は減り、代わりに酒場や飲食店、娯楽施設が目立ち始める。露店には武器や防具、異国の装飾品、香辛料や薬草まで並び、人々の活気はむしろ表通り以上だった。


だが、一本路地へ目を向けると空気は一変する。


陽の光が届きにくい細い路地。


壁にもたれ掛かる男たち。


こちらを一瞥しただけで視線を逸らす人々。


同じ街とは思えないほど雰囲気が違っていた。


その時だった。


「泥棒だ!」


怒声が通りへ響き渡る。


人混みを割るように、一人の若い男がこちらへ駆けてくる。


男の手には革製の財布が握られていた。


そのままレインたちの脇を駆け抜け、迷うことなく細い路地へ飛び込んでいく。


遅れて商人と衛兵たちが現れた。


「待て!」


怒号だけが路地へ響き、男の姿はすでに見えない。


レインは迷わなかった。


「追います。」


細い路地へ飛び込む。


表通りの喧騒は一瞬で遠ざかった。


入り組んだ路地を男は迷いなく走り抜ける。


全力なら追いつける。


だが、レインは距離を詰めようとはしなかった。


男がどこへ向かうのか。


それを知る方が重要だと判断したからだ。


エレアも何も言わず、その後ろを追う。


やがて男は小さな広場へ出ると、一軒の古びた建物へ駆け込んだ。


レインは物陰へ身を寄せ、静かに様子を窺う。


しばらくして建物の別の扉が開いた。


出てきたのは十歳ほどの少年だった。


周囲を見回すと、そのまま何事もなかったように歩き去っていく。


さらに今度は二十代ほどの男が姿を現した。


こちらも財布は持っていない。


建物の前で軽く伸びをすると、そのまま別の路地へ消えていった。


「一人ではなさそうですね。」


「ええ。」


エレアは小さく頷く。


「逃げ込む場所も、役割も決まっているように見えます。」


二人が見守る間にも、人の出入りは続く。


若者。


年配の男。


買い物帰りの女性。


誰もが何気なく建物へ入り、しばらくすると別々の方向へ去っていく。


知らなければ、ごく普通の民家にしか見えない。


「財布一つで踏み込むには危険ですね。」


エレアが静かに言う。


レインも頷いた。


「ええ。」


「依頼は盗まれた財布ですが、この建物の方が気になります。」


その時、扉が再び開いた。


今度は革袋を抱えた男が足早に姿を現す。


男は周囲を一度だけ見回すと、東区のさらに奥へ向かって歩き始めた。


レインの視線が男を捉える。


「財布は後です。」


小さく呟く。


「まずは、あの男を追います。」


エレアは短く頷く。


二人は気配を消し、人混みに紛れるように男の後を追った。

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