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英雄なのか?  作者: よろず
アルカディア騎士編
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112/212

怪しい宿屋2


「部屋はこちらだ」


主人は受付の壁に掛けられていた鍵を外すと、ゆっくりと階段を上り始めた。


レインとエレアもその後へ続く。


階段は年季が入っていたが、不思議なほど軋まない。磨き込まれた手すりには長年使われてきた跡が残り、窓から差し込む夕陽が木目を柔らかく照らしていた。


二階へ上がると、廊下は決して広くない。


それでも床も壁も隅々まで手入れが行き届き、古びているというより、大切に使われ続けてきた宿という印象だった。


「ここだ」


主人は廊下の奥で立ち止まり、鍵を回して扉を開ける。


「入ってみな」


部屋へ足を踏み入れたレインは、小さく目を見開いた。


想像していたより広い。


二つの寝台は部屋の両端へ離して置かれ、その間には机と椅子が並ぶ。壁際には衣装棚と武具棚、奥には丸テーブルまで備えられていた。


豪華ではない。


それでも長期滞在には申し分ない造りだった。


「元は家族連れ用の部屋だ。二人なら十分だろう」


「ありがとうございます」


エレアが一礼すると、主人は軽く頷く。


「飯は一階の食堂だ。朝と夜は用意してある。風呂は夕方から夜まで自由に使ってくれ」


一通り説明を終えると、主人は二人へ目を向けた。


「それと、一つだけ頼みがある」


「宿では暴れないでくれ」


レインは思わず苦笑する。


「そのつもりはありません」


「そうか」


主人は受付で預かった冒険者カードを返しながら、小さく笑った。


「宿代さえ払ってくれれば、事情は聞かん。それがこの宿の流儀だ」


それだけ言い残し、静かに部屋を後にする。


扉が閉まる音が廊下へ消えた。


しばらく沈黙が続く。


やがてレインが小さく口を開いた。


「……気付きましたか」


「ええ」


エレアも静かに頷く。


「普通の宿屋には見えませんでした」


「私も同じ印象です」


それ以上は語らない。


互いに感じたものはあった。


だが、それが何なのかまでは分からない。


レインは閉じられた扉へ目を向ける。


「敵に回したくない相手ですね」


エレアは小さく微笑んだ。


「私も同じ意見です」


窓の外では、夕暮れのライゼンがゆっくりと夜へ向かい始めていた。


二人は荷物を置くと、誰からともなく窓際へ歩み寄る。


この街での任務は、まだ始まったばかりだった。

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