首都ライゼン
商隊が再び動き始めると、白髪の商人は荷馬車の横を歩きながら街道の先へ目を向けた。
「あと数日も進めばライゼンだ」
レインも前方へ視線を向ける。
「中立国家でしたよね」
「ああ」
商人は頷いた。
「西部の商隊は、結局どこを通ってもライゼンへ集まる。商人にとって、あそこは避けて通れん街なんだ」
「だから世界商談会も開かれるんですね」
「そういうことだ」
商人は笑う。
「商談会が近づけば、人も荷も一気に増える。今年は東方から来る商隊も多いと聞いとる」
「東方からも」
「数年に一度の機会だからな。商人は誰だって商売を広げたい」
そう言って肩をすくめた。
「ま、賑やかになるのは悪いことばかりじゃない」
それ以上、この話を続けることはなかった。
旅は順調だった。
護衛たちは街道脇の森へ目を配り、休憩のたびに積み荷を確かめる。
夜は交代で見張りに立ち、朝になればまた荷馬車が動き出す。
長距離商隊にとって、何事もなく進めることが何よりだった。
その一方で、街道の景色は少しずつ変わっていく。
北へ向かう商隊は日に日に増え、休憩所へ立ち寄るたびに聞こえてくる話題も世界商談会ばかりだった。
「宿が全然空いてねぇ」
「護衛が足りんらしい」
「今年は東方の商隊も多いぞ」
どこへ行っても同じ話題が飛び交っている。
レインは周囲を見渡した。
「思っていた以上ですね」
「人の流れですか」
「はい」
エレアも前方へ視線を向ける。
「商談会までは、まだ三か月あります。それでもこれだけの人が集まるんです」
商隊も。
冒険者も。
職人も。
それぞれの目的を胸に、皆ライゼンを目指していた。
そして旅路は七日目を迎える。
昼過ぎ。
先頭の御者が大きな声を上げた。
「見えたぞ!」
商隊中の視線が一斉に前方へ向く。
緩やかな丘を越えた先。
地平線の向こうに、巨大な城壁が姿を現した。
「……あれが」
レインは思わず息をのむ。
王都アルディアにも引けを取らない巨大な城壁。
その内側には無数の建物が並び、高い塔が空へ伸びている。
城門へ続く街道は荷馬車で埋まり、人も馬も絶え間なく行き交っていた。
商人はその光景を眺め、静かに笑う。
「ようこそ、ライゼンへ」
その一言だけだった。
レインは巨大な都市を見つめる。
騎士が国を支える王都とは違う。
この街を動かしているのは、人であり、金であり、情報だった。
表では商人が笑い、裏では無数の思惑が交差する。
商談会まで、あと三か月。
第七騎士団としての最初の任務は、この街から始まる。




