裏の祭り
「止まれ!」
先頭を歩いていた護衛の鋭い声が街道へ響いた。
それまで一定の速度で進んでいた商隊が、一斉に動きを止める。
御者は反射的に手綱を引き、護衛たちは迷うことなく荷馬車の前へ出た。穏やかだった空気が一変し、街道を緊張が支配する。
「どうした!」
商隊責任者が前へ出る。
先頭の護衛は街道脇の林を見据えたまま答えた。
「……誰かいる」
言い終わるより早く、森の奥から一本の矢が飛び出した。
荷馬車の幌へ深々と突き刺さる。
「敵襲!」
怒号と同時に、十人ほどの盗賊が林から飛び出した。
剣や斧を手に、一斉に商隊へ襲い掛かる。
「迎え撃て!」
護衛たちも即座に応戦した。
先頭の護衛が盗賊の剣を受け止め、その横から別の護衛が斬り込む。態勢を崩した盗賊へさらに槍が迫り、逃げ場を失った男は地面へ転がった。
レインの前にも一人の盗賊が迫る。
振り下ろされた剣を受け流し、そのまま手首を打つ。
盗賊の剣が地面へ転がった。
拾おうと身を屈めた瞬間、飛び込んできた護衛が男を組み伏せる。
レインは深追いせず、次の敵へ視線を向けた。
エレアも後方から風魔法を放つ。
狙うのは盗賊ではなく足元。
体勢を崩したところへ護衛たちが次々と踏み込み、連携よく制圧していく。
戦闘は十分も続かなかった。
商隊護衛は盗賊との戦いに慣れている。
人数でも連携でも劣る盗賊たちは次第に崩れ、生き残った者は森へ逃げ込み、数人がその場で拘束された。
「追うな!」
責任者の号令が飛ぶ。
護衛たちは深追いせず、すぐに持ち場へ戻った。
積み荷の確認。
負傷者の手当て。
荷馬車の点検。
慌ただしく動きながらも、誰一人として無駄な動きはない。
その様子を見ながら、レインが口を開く。
「盗賊にしては少ないですね」
「ええ」
エレアも森へ目を向ける。
「この規模の商隊を襲うには、明らかに人数が足りません」
「……様子見ですか」
「その可能性はあります」
エレアは短く答えた。
「護衛の数や動きを確かめるためだったとしても、不思議ではありません」
その時、一人のベテラン商人が苦笑しながら近づいてきた。
縛られた盗賊たちを見下ろし、小さく肩をすくめる。
「ライゼンへ近づくほど、こういう連中は増えてくる」
「世界商談会が近いからですか」
レインが尋ねると、商人はゆっくり頷いた。
「人も荷も集まるからな。それを狙う奴も増える」
それだけ言うと、それ以上は語らなかった。
「先のことを考えるより、まずは無事にライゼンへ着くことだ」
そう言い残し、商人は自分の持ち場へ戻っていく。
責任者が商隊を見渡した。
「出発する!」
再び荷馬車が軋み、商隊はゆっくりと街道を進み始める。
ライゼンまで、まだ数日。




