ベルン商会再び
翌朝。
まだ朝日が昇り切らない北門前は、各地へ向かう旅人や商隊で朝早くから賑わっていた。
荷馬車が列をなし、御者は馬具を点検し、商人たちは積み荷を確かめる。門番の号令が飛び交い、やがて重い城門がゆっくりと開き始めた。
「ベルグ商会はこちらです」
ギルド職員に案内され、レインとエレアは一際大きな商隊の前へ向かう。
三十台を超える荷馬車。
積み荷にはベルグ商会の紋章が刻まれ、商人も使用人も慌ただしく動いている。それでも無駄な動きは一つもなかった。
「冒険者ギルドから伺っております」
責任者らしき男が二人へ歩み寄る。
「本日からライゼンまで護衛をお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
挨拶を交わした、その時だった。
積み荷を確認していた白髪の商人がふと顔を上げる。
レインを見るなり目を細め、小さく笑った。
「……久しぶりだな」
「お久しぶりです」
半年ぶりの再会だった。
互いに笑みは浮かべるものの、昔話をすることはない。
レインは周囲へ一度だけ視線を巡らせ、声を落とした。
「今回は国の任務です」
白髪の商人は一瞬だけ表情を引き締める。
「そうか」
それ以上は何も聞かなかった。
「この時期のライゼンは、どこの国も慌ただしい。商人は荷を運ぶのが仕事だ。余計なことを知ろうとすると、長生きはできん」
「ありがとうございます」
「礼なら、無事にライゼンへ着いてから聞こう」
そう言うと、白髪の商人はすぐに商隊へ向き直る。
「最終確認だ! 積み忘れはないか!」
「異常ありません!」
「馬具よし!」
「積み荷よし!」
威勢のいい返事が続き、やがて先頭の荷馬車がゆっくりと動き出した。
三十台を超える商隊は一定の間隔を保ちながら王都を離れ、北街道を進んでいく。
城壁が遠ざかり、街道の両脇には草原と森が広がる。
「初依頼にしては、ずいぶん大きな商隊ですね」
「ベルグ商会ほどになりますと、一つの商隊だけでも小さな組織です。護衛も御者も、それぞれ自分の役割を理解しています」
レインは周囲へ目を向けた。
護衛たちは雑談を交わしながらも、絶えず街道や森へ視線を配っている。
御者たちも前だけではなく、左右や後方を一定の間隔で確認していた。
「よく訓練されていますね」
「長年積み重ねてきた経験でしょう。だからこそ、西大陸でも信用されているんです」
商隊は順調に北へ進み、昼が近づく頃には王都の城壁も見えなくなっていた。
街道は穏やかだった。
旅人が行き交い、風が草原を揺らす。
誰の目にも、いつもと変わらない一日に映った。
その時だった。
商隊前方を歩いていた護衛の一人が、不意に足を止める。
ゆっくりとしゃがみ込み、街道へ手を触れた。
次の瞬間、その表情が変わる。
「……止まれ」
低く抑えた声だった。
だが、その一言だけで商隊全体が止まる。
護衛たちが一斉に武器へ手を掛け、鋭い視線を街道脇の森へ向けた。




