Cランク
案内された先は、ギルド裏手に設けられた訓練場だった。
石壁に囲まれた広場では、木剣を打ち合う音が絶えず響き、弓兵が的へ矢を放ち、魔術師たちが魔法の制御を繰り返している。王立騎士学校ほどの広さはない。だが漂う空気はまるで違った。
ここにいる者たちは誰かに評価されるためではない。
依頼を生きて終えるために腕を磨いている。
ハマイは広場の中央で足を止めると、背中の大剣を壁際へ立て掛け、代わりに訓練用の大剣を手に取った。
「ハマイだ。試験は単純。俺と手合わせをしてもらう。勝つ必要はない。依頼を任せられる実力があるかを見るだけだ」
二人を見渡す。
「どちらから来る」
「私からお願いします」
エレアが一歩前へ出る。
「魔術師か」
「落ち着いてるな、新人にしては」
周囲の冒険者たちが興味深そうに視線を向ける。
エレアは試験用の杖を受け取り、静かに構えた。
「始め」
合図と同時にハマイが踏み込む。
重い一撃。
だがエレアは半歩だけ下がり、足元へ土壁を生み出して軌道を逸らす。さらに風魔法で間合いを保ち、決して無理はしない。
数合打ち合ったところで、ハマイが一気に距離を詰めた。
土壁を押し切り、大剣が杖を弾き上げる。
切っ先が喉元で止まった。
「そこまで」
「ありがとうございました」
一礼したエレアは静かに下がる。
ハマイは表情を変えなかった。
だが胸の奥に、小さな違和感だけが残る。
「次」
「はい」
今度はレインが前へ出た。
木剣を受け取り、軽く握りを確かめる。
「始め」
ハマイが真っ直ぐ踏み込む。
大剣が唸りを上げる。
レインは真正面から受け止めず、身体をわずかにずらして衝撃を流した。
二撃目も。
三撃目も。
受け切らず、流す。
避け過ぎず、残る。
反撃も浅い。
出発前に決めた通り、実力は見せ過ぎない。
見物していた冒険者たちからも声が漏れる。
「おい、新人にしてはやるな」
「無茶に攻めねぇ」
「基礎がしっかりしてる」
ハマイは踏み込みを深くした。
鋭く振り上げた一撃が木剣を弾き飛ばし、切っ先が肩口で止まる。
「そこまで」
「ありがとうございました」
レインは頭を下げた。
ハマイは二人を見比べる。
新人としては十分以上。
それでも妙な違和感だけが残った。
勝てそうで勝てない。
崩れそうで崩れない。
まるで最初から見せる実力を決めていたようだった。
もっとも、それを確かめる術はない。
「……査定を出す」
短く告げる。
「酒場で待っていろ」
そう言い残し、受付へ戻っていった。
レインとエレアも酒場へ向かう。
昼時ということもあり、酒場は多くの冒険者で賑わっていた。
「最近、西街道の魔物が増えてるらしいぞ」
「だから護衛料も上がってるのか」
「あの商隊、明日には北へ出るって話だ」
様々な話が飛び交っている。
エレアが小声で言った。
「こういう場所には、依頼書へ載る前の情報が集まります」
「正式な報告になる前の情報ですね」
「ええ。真偽を見極めるのも冒険者の仕事です」
レインは静かに頷いた。
その時、受付嬢が二人へ歩み寄ってくる。
「お待たせいたしました。査定が終わりましたので、受付までお願いいたします」
受付へ戻ると、カウンターには二枚の銀灰色の冒険者カードが置かれていた。
「試験結果をもとに、お二人ともCランクでの登録となります」
その言葉に、近くの冒険者たちが振り向く。
「新人でCランクか」
「ハマイが認めたなら当然だな」
小さなざわめきは広がったが、それ以上騒ぐ者はいない。
受付嬢はカードを差し出す。
「Cランクになりますと、討伐依頼に加え、商隊護衛や個人護衛なども受注できます」
「ありがとうございます」
カードを受け取ったレインは、表面へ目を落とした。
今日から自分たちは、表向きは王国の騎士ではない。
どこにでもいるCランク冒険者だ。
エレアが掲示板へ視線を向ける。
「では、依頼を探しましょう」
二人は並んで掲示板へ歩き出した。




