冒険者ギルド
王都西区は今日も活気に満ちていた。
石畳を荷馬車が行き交い、商人たちの呼び声が響く。露店から漂う焼きたてのパンや肉の香りに誘われ、人々が足を止める。その賑わいは王城周辺とはまた違う、生き生きとした熱気にあふれていた。
そんな人波の中を、一組の男女が静かに歩いている。
二人とも深くフードを被り、目立たない装いを選んでいた。
隣を歩くエレアは黒い魔術師ローブをまとい、顔立ちは影に隠れている。それでも自然と目を引く気品があり、すれ違う人々が思わず振り返る。
レインも灰色のフードを目深に被っていたが、整った顔立ちまでは隠しきれない。行き交う冒険者が何気なく視線を向け、そのまま通り過ぎていった。
「見えてきました」
エレアの視線の先に、王都冒険者ギルドが堂々と建っていた。
三階建ての石造りの建物は周囲よりひときわ大きく、正面には剣と盾を組み合わせた紋章が掲げられている。重厚な扉は朝から絶え間なく開閉を繰り返し、そのたびに武具の擦れる音や笑い声が外まで漏れ聞こえてきた。
討伐帰りの冒険者が魔物素材を運び込み、掲示板の前では依頼書を見比べる者たちが集まっている。酒場からは景気のいい笑い声も響いていた。
騎士団とはまるで違う空気だった。
「初めてです」
レインが建物を見上げる。
「でしょうね。国外では騎士より冒険者の方が自然に行動できる地域も少なくありません。今回の登録も、そのための準備です」
レインは素直に頷いた。
騎士という肩書きは便利な反面、それだけで人目を集める。
だが冒険者なら国境を越えて活動していても不自然ではない。第七騎士団の任務には、その方が都合が良かった。
「では、行きましょう」
二人は並んで扉をくぐる。
中へ入ると、熱気が一気に押し寄せた。
受付では依頼達成の報告が行われ、掲示板の前では依頼書を巡って冒険者たちが真剣な表情を浮かべている。奥では運び込まれた魔物素材の査定が進み、酒場からは豪快な笑い声が響いていた。
戦士、斥候、魔術師、回復術師。
装備も年齢も様々だが、この場にいる全員が自らの腕一本で生きる冒険者だった。
「こちらです」
エレアに案内され、人の少ない受付へ向かう。
受付の向こうでは、栗色の髪を肩まで伸ばした若い女性が書類を整理していた。
「いらっしゃいませ。本日は――」
顔を上げた受付嬢の言葉が止まる。
顔はほとんど見えない。
それでも分かった。
二人とも普通ではない。
思わず見入ってしまい、はっと我に返る。
「あっ……し、失礼しました」
頬を赤く染めながら姿勢を正した。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「冒険者登録をお願いします」
エレアが落ち着いた口調で答える。
「かしこまりました」
受付嬢は二枚の用紙を差し出した。
「こちらへ、お名前、生年月日、ご出身、それから得意分野をご記入ください」
レインは迷わずペンを取る。
名前はレイン。
家名は書かない。
隣のエレアも同じだった。
受付嬢は書類を確認し、にこりと微笑む。
「ありがとうございます。それでは確認ですが、お二人とも冒険者として活動された経験はございますか」
「ありません」
「承知しました。初回登録では、簡単な実力確認を兼ねた試験を受けていただきます。試験結果をもとに初期ランクを決定いたします」
レインがエレアを見る。
エレアは小さく頷いた。
「では、試験をお願いします」
「かしこまりました」
受付嬢はカウンターの小さな鈴を鳴らす。
澄んだ音色がギルド内へ響いた。
やがて奥の扉が開き、重い足音が近づいてくる。
姿を現したのは、二メートル近い巨体の男だった。
背には使い込まれた大剣。
男が歩くだけで、近くの冒険者たちが自然と道を譲る。
男はレインとエレアを見比べた。
「この二人か」
「はい。登録試験を希望されています」
男は二人をじっと見つめる。
その目は新人を見るものではなく、相手の力量を見極める歴戦の冒険者の目だった。
「……なるほど」
短く呟き、踵を返す。
「ついて来い。試験場へ案内する」
レインとエレアは無言で頷き、その背中を追ってギルドの奥へ歩き出した。




