表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄なのか?  作者: よろず
戦争準備編
PR
100/225

次は騎士団で


卒業式当日。王立騎士学校の講堂には、例年にも増して張り詰めた空気が漂っていた。


壇上には学園長アレクシスをはじめとする教官達が並び、最前列には卒業を迎えた二年生達、その後方には一年生全員が整然と席に着いている。窓から差し込む柔らかな春の日差しが赤い絨毯を照らし、普段は訓練場で剣を振るう生徒達も、この日ばかりは正装に身を包み、静かに壇上へ視線を向けていた。


講堂を満たす厳かな音楽とともに、卒業証書授与が始まる。


一人、また一人と名前が呼ばれ、そのたびに卒業生が壇上へ進み出る。証書を受け取り、一礼して席へ戻る。その一連の所作を、一年生達は誰一人として目を逸らさず見つめていた。


二年後、自分達もあの場所へ立つ。


そんな思いが、言葉にしなくとも自然と胸に浮かぶ。


卒業後の道はそれぞれ違う。


騎士団へ進む者。


領地へ戻り家を継ぐ者。


あるいは王国各地で、それぞれの使命を果たす者。


進む道は違っても、この学び舎で過ごした二年間に終わりが訪れるという事実だけは、全員に等しく訪れる節目だった。


やがて最後の一人まで証書を受け取り終えると、学園長アレクシスが静かに一歩前へ進み出る。


「諸君、卒業おめでとう。」


決して大きな声ではない。


それでも、その一言は講堂全体へ不思議なほどよく響き渡った。


「これより先、お前達を守る者はおらぬ。騎士とは、自らの判断一つで部下を生かし、時には国の命運すら左右する存在じゃ。ここで学んだ全てを胸に、それぞれの道を歩んでほしい。」


祝辞は短かった。


飾り立てる言葉も、耳障りのよい激励もない。


だからこそ、一つひとつの言葉が卒業生達の胸へ静かに刻まれていく。


やがて講堂いっぱいに盛大な拍手が響き渡り、厳粛な空気に包まれていた卒業式は静かに幕を閉じた。


講堂の扉が開き、生徒達が外へ出た途端、それまで張り詰めていた空気は嘘のように和らぐ。


「終わったぁ!」


「ようやく卒業だ!」


「あとは配属先へ行くだけだな。」


あちこちで安堵の笑い声が上がり、仲間同士で肩を叩き合う姿が見える。別れを惜しむ者、将来の約束を交わす者、それぞれが卒業という節目を思い思いに過ごしていた。


そんな中、一年生達は自然と二年Sクラスのもとへ集まっていく。卒業を迎えた先輩達へ、最後の挨拶をするためだった。


「卒業、おめでとうございます。」


レインが頭を下げると、エドワードは穏やかに微笑んだ。


「ありがとう。君達も一年間、よく頑張った。」


「来年はあなた達が、この場所に立つ番ね。」


クリスティーナの言葉に、ラグナは力強く頷く。


「その頃には、もっと強くなっています。」


「いや、十分強いと思うけどな。」


レオンが苦笑すると、その場に小さな笑いが広がった。


和やかな空気の中、一人の少女が静かに輪の中へ歩み出る。


リリアだった。


真っ直ぐレインの前で立ち止まる。


「レイン。」


「はい。」


「またすぐ会う気がする。」


あまりにも自然な口調だった。


レインは思わず苦笑する。


「リリア先輩らしいですね。」


しかし、リリアは小さく首を振った。


「勘。」


短い一言。


だが、その場にいた二年Sクラスの誰一人として笑わない。


リリアの勘が、何度も現実になってきたことを皆知っているからだ。


「俺もそんな気がする。」


アレスが腕を組みながら言う。


「理由は?」


「知らん。」


即答だった。


そのやり取りに周囲から笑みがこぼれる。


「不思議だが、私もまた会う気がする。」


ヴィクトルが静かに続き、クラウスも眼鏡を押し上げながら頷いた。


「私も同感です。」


エドワードはレインを見つめ、静かに口を開く。


「君なら、どこへ行ってもやっていける。次に会う時は、互いに騎士として胸を張れる存在でありたい。」


「はい。」


短い返事だった。


だが、その一言には迷いのない決意が込められていた。


やがて別れの時が訪れる。


一人、また一人と握手を交わし、二年Sクラスは新たな任地へ向かって歩き出した。


その背中が見えなくなるまで、一年生達は静かに見送り続けていた。

やがてレインは静かに振り返る。


そこには一年Bクラスの仲間達と、一年Sクラスの面々が自然と集まっていた。


ロイが腕を組み、いつもの調子で笑う。


「さて、次は俺達の番だな。」


その一言に、皆が頷く。


来年は自分達が卒業する側になる。


そんな思いを胸に、それぞれが前を向いていた。


レインは少しだけ言いづらそうに頭を掻く。


「みんなに話がある。」


その瞬間、場の空気が変わった。


ロイの笑みが消え、ガレンも表情を引き締める。ラグナ達も自然と視線を向け、誰も口を挟まない。


レインは一人ひとりの顔を見回してから、静かに口を開いた。


「家庭の事情で、この学校を辞めることになった。」


言葉が落ちた瞬間、辺りから音が消えたような錯覚が走る。


誰もすぐには反応できない。


「……冗談、だよな?」


ようやくロイが声を絞り出す。


レインは静かに首を横へ振った。


「急に決まったことなんだ。」


それだけで十分だった。


詳しく聞かない方がいい事情なのだと、その場にいた全員が察する。


重い沈黙を破ったのはラグナだった。


「……なら、仕方ねぇ。」


ぶっきらぼうな口調だったが、その声音はどこか優しい。


「学校は違っても、騎士になる奴は騎士になる。」


レオニスも静かに頷く。


「結局、行き着く先は同じだ。」


その言葉に、少しだけ張り詰めた空気が和らいだ。 


ロイは大きく息を吐くと、いつもの笑顔を浮かべた。


「そういうことだ。湿っぽい別れは性に合わねぇ。」


「どうせまた戦場で会うさ。」


ガレンが苦笑しながら続ける。


「その時は負けませんよ。」


アイリスが笑みを浮かべると、フィオナも小さく頷いた。


「今度は同じ部隊になっているかもしれないしね。」


レインは仲間達をゆっくりと見回した。


Bクラスで過ごした日々。


Sクラスで学んだ時間。


振り返れば一年という歳月はあっという間だった。それでも、この学校で得た経験と出会いは、何年にも感じられるほど濃密なものだった。


自然と笑みがこぼれる。


「みんな。」


仲間達の視線が集まる。


「ありがとう。」


その一言に、ロイは照れ隠しをするように拳を突き出した。


「戦場で会おう。」


「もちろんだ。」


ラグナも拳を重ねる。


続いてガレン、アルベルト、アイザック、ワル、そして一年SクラスとBクラスの仲間達が次々と拳を合わせていく。


「戦場で。」


「騎士団で。」


「また会おう。」


短い言葉が交わされるたび、それは別れの挨拶ではなく、再会の約束へと変わっていった。


春風が校庭を吹き抜ける。


レインは最後にもう一度だけ学び舎を振り返り、小さく一礼した。


ここで過ごした一年は終わる。


だが、この場所で結んだ縁まで終わるわけではない。


それぞれが未来へ向かって歩き出し、新たな物語が始まろうとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ