表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第10章 喪失編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/120

第98話 語られる過去

朝。


宿場町を後にした二人は、東へ続く街道を歩いていた。


昨夜よりも空は晴れ、柔らかな陽射しが街道を照らしている。


山は地図を見ながら前を歩く。


雷姫は少し後ろを静かについて行く。


しばらくは言葉も無かった。


風だけが二人の間を吹き抜けていく。


やがて雷姫が小さく口を開いた。


「山、一つ聞いてもいいか。」


「何だ。」


「珍しいな。」


山が少し笑うと、雷姫は少しだけ考えてから静かに続けた。


「私は、お前のことをほとんど知らん。これから共に旅をするなら、知っておきたいと思った。」


「急だな。」


雷姫は視線を逸らす。


「……興味がある。それだけだ。」


山は何も言わない。


しばらく歩きながら考えた後、小さく頷いた。


「じゃあ、先に雷姫からだ。」


雷姫は少し驚いたように山を見る。


だが、すぐに静かに頷いた。


「分かった。」


少しだけ昔を思い出すように空を見上げる。


「私は小さい頃から剣しか知らん。父も武人だったから、朝起きれば鍛錬、食べても鍛錬、日が暮れても鍛錬だった。」


山は思わず苦笑する。


「大変だったな。」


雷姫も少しだけ笑った。


「その頃は、それが当たり前だった。他の生き方を知らなかったからな。」


静かな声だった。


「戦える者は戦う。負ければ死ぬ。それだけだ。気付けば皆が私を雷姫と呼んでいた。」


少しだけ肩を竦める。


「だから私は、戦うこと以外何も知らん。」


山は静かに頷いた。


「……雷姫らしいな。」


「そうか。」


「真面目過ぎる。」


雷姫は少しだけ眉を寄せる。


「それは褒めているのか。」


「多分。」


思わず二人とも小さく笑う。


笑いが落ち着くと、雷姫は山を見た。


「次はお前だ。」


山の笑みが少しだけ消えた。


「……俺か。」


歩きながら視線を前へ向ける。


本当のことなど話せる訳がない。


異世界から来たことも。


前の世界で生きていたことも。


全部、胸の奥へしまい込む。


少しだけ考えた後、山は静かに口を開いた。


「俺は……人と長く付き合うのが苦手だった。」


雷姫が首を傾げる。


「何故だ。」


山は少しだけ笑う。


その笑みは、どこか寂しかった。


「どうせ離れていくから。」


雷姫は黙る。


意味が分からなかった。


「家族か。」


「違う。」


「友か。」


山は少しだけ視線を落とした。


「……友達だと思ってた奴だよ。必要な時だけ近付いて来て、利用されて、終わればそれまで。そんな奴ばっかりだった。」


雷姫は歩みを少しだけ緩めた。


山は淡々と話している。


だが、その声だけはどこか諦めていた。


「だから最初から期待しない方が楽だった。どうせ皆いなくなる。そう思ってた。」


雷姫は何も言えなかった。


昨日まで。


何故この男が、人との距離を測るように接するのか。


何故いつも一歩引いているのか。


理解出来なかった。


今なら少しだけ分かる。


傷付かないためだった。


失わないためではない。


最初から期待しないためだった。


山は少しだけ頭を掻く。


「……まぁ、昔の話だ。」


そう言って笑う。


その笑顔は、どこか無理をしていた。


雷姫は深く聞かなかった。


聞けば、きっとこの男はまた笑って誤魔化す。


そんな気がしたからだった。


昼過ぎ。


二人は街道脇の大きな木陰で腰を下ろした。


山が水筒を差し出す。


「飲むか。」


雷姫は受け取り、小さく頷く。


「ありがとう。」


自然だった。


互いに礼を言うことも。


水を渡すことも。


昨日までより、ずっと自然になっていた。


雷姫は水筒を返しながら静かに山を見る。


(……そういうことだったのか。)


誰かを信用することが怖い。


だから人と距離を置く。


それでも仲間だけは守ろうとする。


矛盾しているようで、この男の中ではそれが当たり前なのだろう。


山も雷姫を見る。


(真面目な奴だ。)


戦うことしか知らない。


だから真っ直ぐだ。


だから嘘も下手だ。


昨日より。


今日の方が少しだけ。


互いのことを知ることが出来た。


それだけだった。


それだけなのに。


二人の距離は、昨日より少しだけ近付いていた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

続きも毎日更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ