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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第10章 喪失編

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第97話 並ぶ背中

朝。


東へ続く街道を、二人は並んで歩いていた。


空は高く澄み、風は穏やかだった。


鳥のさえずりが木々の間を渡っていく。


山は腰へ差した地図を取り出し、歩きながら目を通す。


しばらく黙って眺めた後、小さく口を開いた。


「この先に村がある。」


雷姫が隣から覗き込む。


「今日中に着けそうか。」


「多分な。」


短いやり取り。


それだけで話は終わる。


だが。


昨日までなら、山は「どこへ行くか」すら決められなかった。


少しだけ。


本当に少しだけだったが、自分から前を向こうとしていた。


雷姫はその変化に気付いていた。


何も言わない。


今は、それでいいと思った。



昼前。


街道の先で人だかりが見えた。


近付くと、一台の荷車がぬかるみへ車輪を取られていた。


老夫婦が必死に押している。


だが、びくともしない。


山は自然と足を止めた。


雷姫が横を見る。


「行くのか。」


山は少しだけ困ったように笑う。


「……困ってるみたいだからな。」


雷姫はため息を吐く。


「お前は本当に。」


そう言いながらも、先に荷車へ歩いて行った。


老夫婦が驚いて顔を上げる。


「すまんのう。」


「手を貸してもらえるかい。」


山は荷車の後ろへ回る。


「押します。」


雷姫は車輪の横へ立った。


「合図を。」


山が頷く。


「せーの。」


二人で力を込める。


ぬかるみが大きく音を立てた。


車輪が少し浮く。


「もう一回。」


「せーの!」


ズボッ、と音を立てて車輪が泥から抜けた。


荷車が前へ進む。


老夫婦がほっと胸を撫で下ろした。


「助かったよ。」

「本当にありがとう。」


山は照れくさそうに頭を掻く。


「大したことじゃないです。」


老爺は二人を見比べた。


「若い夫婦は力があるなぁ。」


「違う。」

「違う。」


また綺麗に声が重なった。


老夫婦は顔を見合わせる。


そして大笑いした。


「息ぴったりじゃないか。」


雷姫は僅かに眉を寄せる。


「だから違う。」


山も苦笑するしかなかった。



荷車を引き終えた老婦人が、荷の中を探り始める。


「これ。」


籠へ入った野菜を差し出した。


山は慌てて手を振る。


「いや、そんな。」


「礼だから受け取って。」


老婦人は笑う。


「助けてもらったままじゃ気が済まないんだよ。」


山は困ったように雷姫を見る。


雷姫は短く言った。


「受け取れ。」


「……いいのか。」


「断れば相手も困る。」


山は少しだけ考え、深く頭を下げた。


「ありがとうございます。」


老夫婦は嬉しそうに笑った。


「旅は気を付けるんだよ。」


「はい。」


二人は再び歩き始めた。


しばらく無言だった。


やがて山が野菜の入った籠を見る。


「思わぬ収穫だったな。」


雷姫は少しだけ口元を緩めた。


「助けた甲斐があったな。」


「……そうだな。」


山も少しだけ笑う。


その笑顔は。


砦を失ってから初めて見せる、自然な笑顔だった。


雷姫は横顔を見つめる。


(……笑えるのだな。)


それだけで、少し安心した。



夕方。


二人は街道を外れた小高い丘で野営を始めた。


山が薪を集める。


雷姫が火を起こす。


もう何も言わなくても役割が決まっていた。


焚き火が灯る。


昼に貰った野菜を鍋へ入れる。


湯気が立ち上った。


「少し豪華だな。」


山が呟く。


雷姫も頷いた。


「昨日よりは。」


二人は向かい合って食べ始める。


静かな夕暮れだった。


山は火を見つめながら、小さく息を吐く。


(……こういう時間も。)


悪くない。


そう思ってしまった自分に、少し驚く。


すぐに首を振る。


(違う。)

(ただ、一緒に旅をしているだけだ。)


向かいでは雷姫も同じように焚き火を見つめていた。


(……おかしい。)


初めて会った時は、ただの敵だった。


山隊砦へ向かう途中は、義信の恩人だから気になった。


だが今は違う。


気付けば、無意識に山の姿を目で追っている。


傷は痛まないか。


ちゃんと食べているか。


そんなことばかり考えている自分がいた。


(……何だ、この感覚は。)


分からない。


戦しか知らずに生きてきた。


こんな気持ちになったことは、一度も無い。


雷姫は小さく息を吐いた。


(……ただの興味だ。)


そう、自分へ言い聞かせる。


だが。


気付けば二人とも。


昨日より自然に笑っていた。


東への旅は、まだ始まったばかりだった。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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