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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第10章 喪失編

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第92話 再会

木漏れ日が森へ差し込んでいた。


風は穏やかで、どこからか鳥のさえずりも聞こえてくる。


昨日までと何一つ変わらない、そんな静かな森だった。


だが、その景色だけが山にはひどく遠く感じられた。


木へ背を預けたまま、虚ろな目で地面を見つめる。


何も考えまいとしても、ふと気を緩めれば皆の笑顔が浮かぶ。


だから何も考えられなかった。


落ち葉を踏む音が近付いてくる。


山は顔を上げない。


敵でも構わない。


そんな投げやりな思いだけが胸に残っていた。


「……山殿?」


聞き覚えのある声だった。


ゆっくりと視線を向ける。


そこに立っていたのは雷姫だった。


鎧は傷付き、土埃にまみれている。


疲労の色は濃い。


それでも、その瞳だけは真っ直ぐ山を見ていた。


「……やはり山殿か。」


小さく安堵したように息を吐く。


山は何も答えない。


雷姫はその姿を見つめた。


服は破れ、乾いた血が残っている。


だが、それ以上に。


目が死んでいた。


あの山が。


人の顔色ばかり窺っていた男が。


今は何も映していない。


雷姫はゆっくりと膝をつく。


「何があった。」


返事はない。


風だけが二人の間を通り抜けていく。


長い沈黙のあと、山はゆっくり立ち上がった。


何も言わず、そのまま歩き始める。


「……山殿。」


呼び掛けても止まらない。


雷姫も後を追った。


しばらく歩いてから尋ねる。


「どこへ行く。」


山は少しだけ足を止める。


そして、小さく呟いた。


「……分からない」


それだけだった。


雷姫は言葉を失う。


行き先が分からない。


そんなことを言う男ではなかった。


山は再び歩き出す。


森の奥へ。


ただ足を前へ運ぶように。


雷姫は静かにその後ろを歩いた。


やがて、ぽつりと口を開く。


「私はもう白蓮へ戻れない。」


返事はない。


「副将を失った。兵も……ほとんど残っていない。」


山は歩き続ける。


「戻れば捕らえられる。あるいは討たれる。」


雷姫は苦く笑った。


「だから、もう帰る場所はない。」


それでも山は何も言わない。


雷姫は少し空を見上げた。


「義信の言葉を信じて、山隊砦へ向かうつもりだった。」


「山殿なら……力を貸してくれると思った。」


山の足が一瞬だけ止まる。


本当に、一瞬だけ。


だが。


何も言わずにまた歩き始めた。


その背中を見つめながら、雷姫は胸の奥がざわつくのを感じた。


砦の名を口にしても。


仲間の話をしても。


山は何一つ反応しない。


まるで、その場所へ帰ることを考えるだけで心が閉ざされてしまうようだった。


(何があった。)


胸騒ぎが静かに広がっていく。


今すぐ砦へ向かえば真実は分かるかもしれない。


だが――。


雷姫は山の背中を見つめる。


足取りは頼りなく、少し気を抜けばそのまま森の中へ倒れてしまいそうだった。


(……彼を、一人には出来ない。


理由は分からない。


それでも、今の山を放って砦へ向かうことだけは、どうしても出来なかった。


雷姫は小さく息を吐き、何も言わずその背中を追う。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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