↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
83/123

第82話 決意

朝。


砦では、今日も穏やかな時間が流れていた。


「おい、新八」


鉄が大きく手を振る。

「その桶、こっちへ運んでくれ」


「はい」

新八は笑顔で返事をすると、水桶を抱えて歩き出した。


「重かったら言えよ」

弥助が声を掛ける。

「無理してまた寝込まれたら困るからな」


「ありがとうございます。でも、このくらいなら大丈夫です」


迅も笑う。

「最初に比べたら顔色も良くなったな」


新八は照れくさそうに頭を下げた。

「皆さんのおかげです」


その様子を、義信は少し離れた場所から見つめていた。


新八は自然と山隊の輪へ溶け込み始めている。


皆も、ごく当たり前のように受け入れていた。


それでも――


(……やはり)


胸の奥に残る違和感だけは消えない。


理由は分からない。

証拠もない。


ただ、何かが引っ掛かる。


(私の思い過ごしなら、それでいいのだが……)


義信は静かに目を伏せた。



昼過ぎ。


山は外濠の水を眺めながら補修箇所を確認していた。


そこへ義信が歩いてくる。


「山殿」


山が振り返る。


「どうした」


「少し、お話ししたいことがあります」


「ああ」


山は頷き、義信と並んで歩き出した。


二人は砦の外れまで来ると、静かに足を止める。


しばらく風の音だけが流れた。


やがて義信が口を開く。

「昨夜のお話を聞いてから、ずっと考えていました」


山は何も言わず耳を傾ける。


「山殿は毎日、皆が安心して暮らせる場所を少しずつ築いておられます」

「誰かのために動くことを当たり前のように続けている」


「その姿を見ているうちに、ようやく気付いたのです」


義信は静かに息を吸う。


「私は、逃げていました」

「失ったものばかりを見て、前へ進むことを諦めていたのだと」


山は義信の横顔を見つめる。


「ですが、もう逃げるのはやめます」


「私にも、戻らなければならない場所があります」

「果たさなければならない役目があります」


その声に迷いはなかった。


山は穏やかに笑う。

「そうか」


短い返事だった。


義信は少し笑う。

「止めないのですね」


「止めたところで、お前の気持ちは変わらないだろ」


山は苦笑する。

「だったら、自分で決めた道を応援する方がいい」


義信は思わず笑みを浮かべた。

「山殿らしいですね」


「そうか?」


「ええ」


義信は静かに頷く。

「山殿と出会わなければ、この決心は出来ませんでした」


山は少し照れくさそうに頭を掻いた。

「俺は何もしてないさ」


「いいえ」


義信は首を横に振る。

「山殿は言葉だけではなく、生き方で教えてくださいました」


「誰かを守るとはどういうことなのか」

「居場所を作るとはどういうことなのか」


山は少しだけ目を細めた。

「大したことじゃないよ」

「俺は俺に出来ることをやってるだけだ」


「それでも」


義信は穏やかに笑った。

「私には十分過ぎるほど伝わりました」


静かな風が吹き抜ける。


外濠の水面が、小さく揺れた。



夕方。


砦では夕食の支度が始まっていた。


新八も志乃に頼まれ、薬草を干す手伝いをしている。

「そのまま日に当て過ぎると駄目だからね」


「はい」


志乃の説明を真剣に聞きながら、新八は丁寧に薬草を並べていく。


その様子を見て、鉄が笑った。

「すっかり働き者になったな」


「少しでも恩返しがしたいので」


「そんな焦らなくてもいいんだぞ」

弥助が笑う。

「ここじゃ誰も、お前に借りを返せなんて言わねぇ」


新八は少し驚いたように皆を見回した。


そして小さく笑う。


「……ありがとうございます」


その笑顔は、昨日よりも自然だった。



夜。


義信は一人、自室代わりの小屋で荷物をまとめていた。


持ち物は多くない。


刀と、着替え、それだけだった。


荷を見つめながら、小さく息を吐く。


(もう迷わない)


(自分のやるべきことを果たそう)


明日。


この砦を発つ。


その決意だけが、静かに胸の中で固まっていた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

続きも毎日更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。