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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感だけで成り上がる転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

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第81話 支えられて

夜。


砦は静かだった。


焚き火の火も小さくなり、聞こえてくるのは虫の声と、見張りが歩く足音だけ。


義信は眠れず、一人で砦の中を歩いていた。


ふと見上げると、外柵の上に人影が見える。


山だった。


一人で夜の見張りをしている。


義信はゆっくりと近付き、隣へ腰を下ろした。

「まだ起きておられたのですか」


山は夜空を見上げたまま笑う。

「なんとなく寝付けなくてさ」


義信もつられて空を見上げる。


星が静かに瞬いていた。


しばらく二人とも何も話さない。


心地よい沈黙だった。

⸻

やがて義信が静かに口を開く。

「山殿、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」


「何だ?」


「以前から気になっていました」


義信は少しだけ言葉を選ぶ。

「何故、そこまで他人を助けようとなさるのです」


山は少しだけ笑った。

「難しいこと聞くな」


「申し訳ありません」


「いや」

山は首を振る。

「義信だから話せることもある」


その言葉に、義信は山の横顔を見つめた。


山はしばらく夜空を眺めたまま、小さく息を吐く。

「俺さ」


「最初は本当に一人だったんだ」


静かな声だった。


「気付いた時には知らない場所にいて、何も分からないまま戦に巻き込まれた」


「逃げることも出来なくて、捕まって、そのまま前線に送られた」


義信は黙って聞いている。


山は少し苦笑した。

「剣なんか握ったこともなかったし、人なんて斬れるわけもない」


「毎日、生きるだけで精一杯だったよ」


少しだけ間が空く。


「……でもさ」


「それだけじゃなかった」


山は自嘲するように笑った。

「元々、誰かと親しくなるのも苦手だったんだ」


「どうせ最後は離れていくって、どこかで思ってたから」


義信はゆっくりと山を見る。


その言葉には、不思議な重みがあった。


「だから最初は、弥助たちとも距離を置くつもりだった」

「助けても、その場限りで終わると思ってたしな」


山は少しだけ肩を竦める。


「でも、あいつら全然離れなかった」


思わず笑みがこぼれた。


「弥助は文句ばっかり言うし、鉄は酒ばっかり飲んでる」

「玄は必要以上に俺を気に掛けるし、孫六は面倒臭そうな顔しながら結局手を貸してくれる」

「迅は気付けば俺より先に動いてるし、志乃には毎回怒られる」


義信も小さく笑った。


山は焚き火の方へ目を向ける。


「あいつらに居場所を作ってやりたいって、ずっと思ってた」


「戦なんかで居場所を失う奴を、一人でも減らしたかった」


静かな声だった。


だが、その言葉には迷いがない。


「でもさ」

山は少し照れ臭そうに笑う。

「気付いたら俺の方が助けられてた」


義信は息を呑んだ。


山は続ける。

「俺は皆を守ってるつもりだった」

「でも本当は違う」


「俺もあいつらに支えられて、ここまで生きてきたんだ」


夜風が静かに吹き抜ける。


「だから失いたくない」


「もう、誰にもあんな思いはしてほしくないし……俺も、あいつらがいなくなるのは嫌なんだ」


その言葉は、とても静かだった。


だが、義信の胸には深く響いた。

⸻

しばらく沈黙が続く。


やがて義信が小さく笑った。

「山殿は、不思議なお方です」


山も笑う。

「よく言われる」


「ですが」


義信は真っ直ぐ山を見る。

「皆が山殿を慕う理由が、少しだけ分かった気がします」


山は照れ臭そうに頭を掻いた。

「そんな大した話じゃないよ」


「いや」

義信は静かに首を振る。

「大した話です」


「少なくとも私は、今夜の話を忘れません」


山は少しだけ目を丸くした。


そして困ったように笑う。

「……こんな話、誰かにしたの初めてだ」


義信も穏やかに笑う。

「それは光栄です」


二人は再び夜空を見上げた。


静かな星空は、何も語らない。


だが、その夜だけは。

二人の距離が、ほんの少しだけ近付いていた。

(続く)

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