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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感だけで成り上がる転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

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第80話 少しずつ

朝。


砦には、いつものように活気が戻っていた。


「そっちもう少し寄せろ!」

迅の声が飛ぶ。


「おう、これでどうだ?」

丸太を抱えた鉄が笑う。


「まだ右だ右!」


「細けぇなぁ!」


そんなやり取りに、あちこちから笑い声が上がる。


医療小屋の中で、新八は静かにその声へ耳を傾けていた。


昨日まで身体を起こすことさえ苦しかったが、今日は少し違う。


ゆっくりと立ち上がると、志乃が振り返った。

「熱は下がったけど、まだ無理は駄目だからね。歩くくらいならいいけど、働こうなんて考えないこと」


新八は小さく頭を下げる。

「分かりました。本当に……お世話になります」


志乃は薬草を袋へ詰めながら肩を竦めた。

「治すのが私の仕事なんだから、そんなに気にしなくていいよ」


そう言って外へ出ていく。


新八は少しだけ笑みを浮かべ、その後を追うように医療小屋を出た。

⸻

外へ出ると、鉄が真っ先に気付いた。

「おっ、歩けるようになったか!」


「はい。ようやく少しだけ」


「それなら上出来だ!」

鉄は豪快に笑う。


その横では弥助が薪を割っていた。

「焦んなよ。身体が戻る前に倒れたら意味ねぇからな」


「はい」


素直に頷く新八へ、迅も笑い掛ける。

「ここじゃ怪我人は大人しくしてるのも仕事だからな。遠慮せず休んどけ」


三人の言葉に、新八は戸惑ったように目を伏せた。

「……ありがとうございます」


それ以上、言葉が出てこなかった。

⸻

昼。


新八は砦の中をゆっくり歩いていた。


外柵の補修。

畑の手入れ。

矢倉の見張り。

誰もが黙々と動いている。


だが、不思議と空気は重くない。


笑い声が絶えないのだ。


その様子を見ていると、山が近付いてきた。

「少し歩けるようになったみたいだな」


「はい。もうだいぶ楽になりました」


「それなら良かった」


山は少し考える。

「……何か手伝いたそうな顔してるな」


新八は思わず苦笑した。

「助けて頂いたまま何もしないというのは、どうにも落ち着かなくて」


山もつられて笑う。

「じゃあ、薪を運ぶくらい頼もうかな。無理しない程度でいい」


「はい!」

思わず声が弾む。


その返事に鉄が吹き出した。

「そんな嬉しそうに返事することかよ!」

⸻

だが、実際にやってみると簡単ではなかった。


薪を抱え過ぎて落としそうになる。

慌てて拾おうとして、今度は足をもつれさせる。


「危ねぇ危ねぇ!」

鉄が支えた。

「一気に持とうとするからだ。少しずつ運べばいい」


弥助も笑う。

「欲張るな。薪は逃げねぇよ」


迅が肩を揺らした。

「最初から上手くやれる奴なんかいねぇって」


周囲から笑いが起こる。


新八も思わず笑ってしまった。

こんな失敗をして笑われたのは初めてだった。


責められることも、怒鳴られることもない。

ただ笑って終わる。


それが、妙にくすぐったかった。

⸻

少し離れた場所。


義信はその様子を静かに見つめていた。


新八は皆と笑っている。

鉄も。

弥助も。

迅も。

自然に受け入れ始めていた。


だが――

(やはり……)


胸の奥に残る違和感だけは消えない。


理由は分からない。

敵意を感じる訳でもない。

何か証拠がある訳でもない。


それでも。

(何かが引っ掛かる)


その感覚だけは拭えなかった。

⸻

夕方。


矢倉の上から孫六が声を掛ける。

「おーい、新八さん」


見上げると、孫六がこちらを覗き込んでいた。

「薪、一束落としてるっすよ」


「あっ!」

慌てて拾い上げる。

「すみません、気付きませんでした」


孫六は肩を竦めた。

「そんな何回も謝らなくていいっすよ。鉄さんたちなら十回くらい落としても笑って終わりですし」


「おい、聞こえてるぞ!」

鉄が下から怒鳴る。


その声に砦中が笑いに包まれた。


新八も、自然と笑っていた。

⸻

夜。


焚き火の火が静かに揺れている。


鉄は酒を飲みながら上機嫌で笑い、弥助が呆れたように突っ込む。


迅もそれを見て笑っていた。


少し離れた場所で、新八はその光景を眺めていた。


山が隣へ腰を下ろす。

「少しは慣れたか?」


新八は焚き火を見つめたまま頷く。

「はい……こんな風に誰かと笑ったのは、本当に久しぶりです」


山は小さく笑った。

「そうか。それなら良かった」


それ以上は聞かない。


新八も、それ以上は話さない。


静かな時間だけが流れていく。


少し離れた場所では、義信が焚き火を見つめていた。


皆が新八を受け入れ始めている。


悪いことではない。


それでも。

胸の奥に残る違和感だけは、今日も消えなかった。


(私の考え過ぎなら、それでいい)

義信は静かに息を吐く。


そう願いながら、燃え続ける焚き火を見つめていた。

(続く)

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