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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

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第79話 目覚め


医療小屋


薄く目を開けた男は、見慣れない天井をぼんやりと見つめていた。


薬草の匂い。


遠くから聞こえる人の話し声。


ゆっくりと身体を起こそうとした瞬間――


「っ……!」


全身に痛みが走る。


「まだ起きちゃ駄目」


静かな声だった。


振り向くと、一人の女が薬を調合している。

志乃だった。


「傷は塞がり始めてるけど、まだ熱が残ってる」

「無理したらまた倒れるよ」


男は小さく頷いた。

「……すまない」


その声を聞き、外から山が入ってきた。

「起きたか」


男は山を見る。

「……あんた達が」

「助けてくれたのか」


山は静かに頷いた。

「ああ、森で倒れてた」

「あのまま放っておくわけにはいかなかったからな」


男は少しだけ目を閉じた。


「……助かった」


短い言葉だった。


山もそれ以上は何も言わない。


少し間を置いて尋ねる。


「名前だけ聞いてもいいか」


男は少しだけ迷った。


そして静かに答えた。

「……新八」

「新八と申します」


山は頷いた。

「そうか」


それだけだった。


新八は少し驚いたような顔をする。

「……それだけですか」


「何がだ?」


「どこの者か、とか」

「何故倒れていたのか、とか」


山は苦笑する。

「話したくなったら話せばいい」

「今は身体を治す方が先だ」


新八は返す言葉を失った。


医療小屋へ鉄が顔を出した。

「起きてんな!」


手には焼いた魚を持っている。

「腹減ってるだろ」


続いて弥助も入ってきた。

「食えるなら食っとけ」

「治るもんも治らねぇ」


迅も笑う。

「遠慮すんな」

「ここじゃ怪我人優先だからな」


新八は戸惑う。

「……私は」

「何も返せません」


鉄が笑った。

「元気になってから考えろ!」


弥助も頷く。

「今は食うのが仕事だ」


新八は静かに魚を受け取った。

「……ありがとう」


しばらく黙って食べ進める。


やがて山が静かに尋ねた。

「一つだけ聞いてもいいか」


新八は顔を上げる。


「何故、街道じゃなく森へ入った」


少しだけ沈黙が流れた。


新八は視線を落とす。

「街道を歩くのが……怖くて」


「人目を避けようとして」

「森へ入りました」


山はそれ以上聞かなかった。

「そうか」


ただ一言だけ返した。

少し離れた場所。


義信は医療小屋を見つめていた。


その表情は晴れない。


玄が静かに隣へ立つ。

「気になるか」


義信は頷いた。

「ああ」

「何か……胸騒ぎがする」


玄は医療小屋へ視線を向けた。

「分からん」


「だが、山は助けると決めた」

「なら俺は従う」


義信は静かに息を吐く。

「山殿を信じているのですね」


玄は短く答えた。

「ああ」


「山は人を見る」

「だから俺も見る」


義信は何も言えなかった。

夕方


新八は起き上がろうとする。

「何か」

「手伝わせて下さい」


鉄が吹き出した。

「馬鹿言え」

「その身体で何すんだ」


弥助も笑う。

「仕事は逃げねぇんだから、まず治せ」


迅が腕を組む。

「怪我人増える方が困る」


周囲から小さな笑いが起こる。


新八は困ったように笑った。

「……では」

「甘えさせてもらいます」


山は静かに頷いた。

「それでいい」


義信は山を見つけると静かに近付いた。

「山殿」


山が振り返る。

「どうした」


義信は少し迷った後、口を開く。

「あの新八という男ですが」


「私は…やはり信用出来ません」


山は否定しなかった。

「…そうか」


ただ静かに頷く。


義信は続けた。

「理由はありません」


「ですが…」

「何か引っ掛かるのです」


山は少しだけ考えた。


「分かった」

「頭には入れておく」


義信は驚いた。

「疑わないのですか」


山は夜空を見上げる。

「疑うことは出来る」


「でも決めつけることはしたくない」

「まだ何も分かってないからな」


義信は静かに俯く。


納得した訳ではない。


だが。

山がそう言うのなら。


もう少しだけ見てみよう。

そう思った。

医療小屋


新八は静かに横になっていた。


外から聞こえてくる笑い声。

鉄の豪快な笑い。

弥助の大きな声。

迅の笑い声。

静かな砦。


新八はゆっくりと目を閉じる。


久しく感じていなかった穏やかな時間だった。

(続く)

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