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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

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第78話 見捨てられぬ者

翌朝。


「昨日の旅人を探す」

山が静かに言った。


迅が頷く。

「ああ」

「怪我してたし」

「あの様子じゃ一人で歩き続けるのはきつそうだった」


弥助が腕を組む。

「見つからなかったら?」


山は少しだけ考えた。

「その時は仕方ない」

「でも探せるうちは探す」


短い言葉だった。


皆は何も言わない。

いつものことだった。

義信も後を追う。


砦を出て森へ入る。


迅が先頭を歩き。


玄が周囲を警戒する。


孫六は木の上から辺りを見回していた。


鉄は大斧を肩へ担ぐ。


弥助は最後尾で後ろを警戒する。


志乃は薬箱を背負って歩いている。


山隊らしい動きだった。

しばらく進むと。


「……いた」

玄が小さく呟く。


木陰。


一人の男が倒れていた。


衣服は泥だらけ。

顔色も悪い。

浅い呼吸だけが続いている。


山はすぐに駆け寄った。

「生きてる」


志乃も膝をつく。

脈を診る。

傷を見る。

「傷自体は深くない」

「でも熱がある」

「かなり衰弱してる」


山は男の顔を見る。


知らない男だった。


義信も近付く。

「知り合いではないのですか」


山は首を横へ振る。

「初めて見る」

少し沈黙が流れた。


鉄が口を開く。

「どうする?」


弥助も男を見る。

「追われてる可能性もあるぞ」


迅が静かに頷いた。

「街道から外れて逃げてた」

「普通じゃねぇ」


皆の視線が山へ向く。


山は男を見つめたまま動かない。


やがて

静かに口を開いた。

「連れて帰ろう」


鉄が苦笑する。

「やっぱそうなるか」


迅も肩を竦めた。

「まぁ頭ならそう言うと思った」


弥助はため息を吐いた。

「また仕事が増えたな」


文句を言いながらも

誰も反対はしなかった。

義信はその様子を見ていた。


思わず山へ尋ねる。

「山殿」

「その者が敵である可能性は?」


山は頷いた。

「ある」


「山賊かもしれない」

「盗賊かもしれない」

「敵の間者かもしれない」


義信は目を見開く。

「ならば何故……」


山は男を抱え上げた。

「分からないからだ」


義信は黙る。


山は続けた。

「悪い奴だったら」

「その時はその時だ」


少しだけ目を伏せる。

「でも」

「何も分からないまま見捨てるのは」

「……俺には出来ない」


それだけだった。

義信は言葉を失う。


普通なら疑う。

普通なら捨て置く。


それが戦国だった。


それなのに

この男は。


知らない誰かを背負い。


当然のように歩き出している。


ただ

義信自身もまた。

その山の判断により救われた一人だった。


だからこそ。

その背中がひどくまぶしく見えた。

鉄が笑った。

「よし」

「じゃあ帰るか」


弥助も肩を回す。

「飯前にもう一仕事だな」


孫六は木から飛び降りる。

「俺、運ぶのまでやるんすか?」


志乃が睨む。

「あんたも運ぶの」


「えぇ……」


迅が吹き出した。

「諦めろ」


小さな笑いが広がる。


義信はその光景を静かに見つめていた。


誰一人。

山の判断を否定しない。


文句は言う。

笑いもする。


それでも

最後は皆が手を貸していた。

(……これが)

(山隊なのか)

砦へ戻ると

志乃はすぐに治療を始めた。


傷を洗い。

熱を測る。

薬草を煎じる。


男は一度だけ薄く目を開けた。


ぼやけた視界の先に。

知らない人々がいた。

「……ここは」

小さく呟く。


山が静かに答えた。

「安心しろ」

「もう大丈夫だ」


男は何か言おうとした。

だが。

力尽きるように再び眠りへ落ちた。


志乃が息を吐く。

「しばらく寝かせるしかないね」


山は小さく頷いた。


義信は眠る男を見つめる。


かつての自分と重なって見えた。

追われ。

傷付き。

行き場を失った者。


その時。

自分を助けたのも。

目の前の男だった。


義信は静かに目を閉じる。

(山殿……)

(あなたは)

(どこまで人を救おうとするのですか)


答えは無い。

砦には。

穏やかな風だけが吹いていた。

夜。


山は医療小屋を訪れた。


「どうだ?」


志乃は額の汗を拭う。

「命は助かる」

「でも数日は動けないね」


山は静かに頷いた。

「頼む」


志乃は苦笑する。

「あんたって本当に」

「放っておけないんだね」


山は少しだけ困ったように笑う。

「……昔の俺を見てるみたいでさ」


志乃は首を傾げた。


山は少しだけ目を伏せる。

「居場所も無くて」

「一人だった」


静かな声だった。


「だからかな」


「こういう奴を見ると」

「放っておけない」


少しだけ笑う。

「助けられるなら」


「見捨てたくない」


志乃はしばらく山を見つめていた。


そして小さく息を吐く。


「……ほんと」

「あんたらしいね」

(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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