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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

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第73話 追われる者

白蓮を出た。


義信は馬を走らせる。


夜風が頬を打つ。


振り返らない。


振り返れば。


もう前へ進めなくなる気がした。


(父上……)


(宗明様……)


胸が締め付けられる。


二人とも

もういない。


そして。


雷姫殿まで

自分を逃がしたせいで危険へ巻き込んでしまった。


義信は拳を握る。


(私は)

(生かされた)


父上

宗明様

そして雷姫殿

三人が繋いだ命だ。


無駄にする訳にはいかない。


「必ず……」

「必ず真実を暴く」

「そして」

「白蓮へ戻る」


小さく呟く。


だが

その決意に浸る時間は無かった。


遠く後方。


大地が震える。


ダダダダダダダ……


義信が振り返る。


土煙。


馬。


複数の騎馬隊だった。


「……っ!」

「もう追っ手か!」


思った以上に早い。


義信は手綱を強く握る。


「急げ!」


馬がさらに速度を上げる。


だが

後方の騎馬隊も速い。


距離は少しずつ縮まっていく。


義信は腰の荷袋を見る。


食料。

水。

着替え。

全て必要だ。


だが

今は命の方が重い。


義信は迷わず荷袋を捨てた。


さらに外套も脱ぎ捨てる。


少しでも馬を軽くする。


「頼む……!」

「もう少しだけ耐えてくれ!」


馬は必死に駆ける。


義信も歯を食いしばる。


(捕まる訳にはいかぬ)

(出来るだけ遠くへ)


その思いだけで走り続けた。

一方。


白蓮城。


雷姫は静かに立っていた。


目の前には。

六道幻庵。

九鬼影宗。

赤堂烈真。

氷牙。


重臣たちが並んでいる。


静まり返った広間。


六道が口を開いた。


「雷姫殿」

「一つ確認したいことがあります」


雷姫は黙って見返す。


「義信殿を」

「牢より逃がしましたな」


短い沈黙。


やがて雷姫は答えた。


「そうだ」


周囲がざわつく。


六道は表情一つ変えない。


「理由を」


雷姫は真っ直ぐ答える。


「義信殿は宗明様を殺していない」

「そう判断した」


六道は穏やかに頷いた。


「なるほど」


「つまり」

「雷姫殿は独断で牢を開け」

「宗明様殺害の容疑者を逃がした」


雷姫は否定しない。


「義信殿は容疑者ではない」

「嵌められたのだ」


六道は困ったように笑う。


「ですが」

「証拠はありません」


静かな声。


だが

その一言が重かった。


雷姫は黙る。


六道は周囲を見回す。


「皆様もご存知の通り」

「宗明様が亡くなられた夜」

「義信殿は宗明様のお屋敷におられました」

「そして」

「血の付いた刀まで見付かっております」


兵たちの表情が変わる。


六道は続ける。


「その義信殿を」

「雷姫殿自ら逃がした」

「事情があったとしても」

「納得するのは難しいでしょう」


誰も反論出来ない。


証拠が無い以上

雷姫の言葉は信じたいだけの話になってしまう。


その空気を破ったのは赤堂だった。


「待て」


赤堂が前へ出る。


「雷姫殿が裏切る訳ねぇだろ」

「宗明様のためなら命まで張る女だ」


氷牙も静かに続ける。


「私も同意見だ」

「雷姫殿が私利私欲で動くとは思えん」


六道は微笑む。


「私も雷姫殿を疑いたい訳ではありません」


「ですが」

「何も処分しないとなれば」

「白蓮の規律は保てませぬ」


再び沈黙。


やがて九鬼が重く口を開いた。


「……処分は必要だ」


赤堂が舌打ちする。


氷牙も目を閉じた。


雷姫は何も言わない。


全て覚悟していた。


話し合いの末。

処分が決まる。


「雷姫」

「本日より」

「白蓮城にて軟禁とする」


広間は静まり返る。


国外追放ではない。

処刑でもない。


だが

自由は奪われた。


雷姫は静かに頭を下げた。


「……承知した」


六道は穏やかに微笑む。


その笑みを見た瞬間。


赤堂だけが

小さく拳を握り締めていた。

その頃。


白蓮領を離れた義信は

なおも追っ手から逃げ続けていた。


だが騎馬隊との距離は

確実に縮まり始めていた。


(続く)

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