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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

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第72話 囮

牢の前。


足音が止まる。


ガチャッ――


錠が外される音が響いた。


ゆっくりと扉が開く。


薄暗い牢へ。

黒装束の男たちが次々と入って来る。


全員が刀を抜いていた。


誰も喋らない。


ただ。

牢の奥で俯く人影だけを見ている。


「……」


先頭の男が刀を振り上げた。


次の瞬間。


一斉に斬り掛かる。


「死ねッ!!」


その瞬間だった。


バサッ。


人影を覆っていた布が宙を舞う。


「なっ――」


雷姫だった。


白刃が一閃する。


キィィン!!


先頭の男の刀が宙へ弾かれる。


雷姫はそのまま踏み込んだ。


一歩。

二歩。

速い。


「ぐっ――」


首筋へ刃が走る。


男は声も上げられず崩れ落ちた。


残る者たちが一斉に襲い掛かる。


「囲め!!」


雷姫は壁を蹴る。


身体が宙へ浮く。


空中で一回転。


そのまま背後へ着地した。


「馬鹿な!」


男が振り向く。


遅い。


一閃。


また一人倒れる。


さらに。

三人目。

四人目。


牢の中は狭い。


人数の利が活きない。


雷姫の刀だけが。


静かに。

確実に命を刈り取っていく。


「くそっ!!」


男が叫ぶ。


「雷姫だ!!」

「義信じゃない!!」


ようやく気付いた。


だが。

遅すぎた。


雷姫は迷わない。


迷えば斬られる。


だから。

一息で距離を詰める。


「はぁっ!!」


最後の二人が同時に斬り掛かる。


雷姫は身体を沈めた。


二本の刀が空を切る。


そのまま一人の懐へ潜り込む。


腹へ肘を叩き込む。


男が呻いた。


そのまま柄頭で顎を打ち抜く。


意識が飛ぶ。


もう一人が後ろから迫る。


雷姫は振り返らない。


後ろ蹴り。


男が体勢を崩す。


振り向きざま。


一閃。


男は倒れた。


静寂。


牢には。

最後の一人だけが残った。


男は震えていた。


雷姫はゆっくり歩く。


逃げようとした男の前へ回り込む。


一瞬。


懐へ潜り込んだ。


刀が首筋へ当たる。


冷たい刃。


男の身体が硬直した。


雷姫の声は静かだった。


だが。

怒りが滲んでいた。


「宗明様を手に掛けたのは」

「お前たちか」


男は首を振る。


「し、知らない!」

「我らではない!!」


雷姫の刃が僅かに食い込む。


首筋から血が流れた。


「ならば」

「何故義信殿を殺そうとした」


男は黙る。


雷姫の声が鋭くなる。


「答えろ」

「誰の命令だ」


男は震え始める。


「た……頼まれたんだ……」


「誰に」


男は唇を震わせた。


「それは……ろ――」


ヒュッ。


ドスッ。


男の胸へ一本の短刀が突き刺さった。


「がっ……」


男はその場へ崩れ落ちる。


絶命。


雷姫が振り向く。


牢の入口。


そこには。

数人の兵を従えた六道幻庵が立っていた。


相変わらず。

穏やかな笑みを浮かべている。


「危ないところでしたな」


雷姫は鋭く睨む。


「六道殿」


六道は死体へ近付き。

静かに目を閉じさせた。


そして小さく首を振る。


「残念です」

「あと少しで真相へ辿り着けたかもしれませんのに」


雷姫は黙っていた。


六道は雷姫を静かに見つめる。


そのまま。

僅かに視線だけを横へ送った。


後ろに控えていた一人の兵が。

小さく一礼する。


「御意」


兵は踵を返すと。

足早に牢を後にした。


雷姫はその背中を見送る。


(……何だ)


違和感。


だが。

止める理由は無い。


六道は何事も無かったかのように微笑む。


「さて」

「義信殿が牢から姿を消しておりますな」


空気が変わる。


兵たちの視線が雷姫へ集まった。


六道は穏やかな笑みを崩さない。


「説明を」

「お願い出来ますかな」


雷姫は六道を真っ直ぐ見返した。


証拠は無い。


だが。

胸の奥に残る違和感だけは。

消えることがなかった。


白蓮の夜。


一人の男は既に追われる身となり。


もう一人は。

その疑いを一身に背負おうとしていた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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