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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第2章:生き残るための選択

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第7話 選別

「……減ったな」


隣からの声。


見るまでもない。


大部屋には、空きができていた。

昨日まで埋まっていた場所に——誰もいない。


「……ああ」


短く返す。


それだけで通じる。

誰が、とは言わない。言う必要もない。


少しの沈黙。


弥助が、小さく息を吐く。


「で」


間を置いて——


「それで、どう動く」


(……来たか)


昨日の続きだ。


「……考えてる」


同じ答え。


だが——


「まだ、決めてない」


一言だけ付け足す。


弥助はわずかに目を細める。


「……遅えな」


軽く言う。責めているわけじゃない。


確認だ。


「次だぞ」


「分かってる」


短く返す。


弥助は数秒黙る。


視線は外さないまま。


そして——


「まあいい」


小さく言う。


「死ぬ動きしねえなら、それでいい」


(……見てるな)


完全には信用していない。

だが——切る気でもない。


様子見。互いに。


静かすぎる空間。


誰も安心していない。


生き残っただけだ。


(……次がある)


その現実だけが、重く残る。


その時——


「動ける奴は外に出ろ! 配置替えだ!」


怒号が響いた。


空気が張り詰める。


全員が立ち上がる。


(……来たか)


外。


整列させられる。


誰も喋らない。

ただ、待つ。


その時——


「道を空けろ!!」


怒号。


空気が変わる。


兵たちが反射のように左右へ割れる。


誰も逆らわない。

いや——逆らえない。


中央を歩く男。


鎧は汚れていない。


だが——


(……違う)


強いとか、そういう話じゃない。


「……鷹司」


弥助が小さく呟く。


(鷹司……)


思考が一瞬止まる。


(あいつのことか)


最初に会った男。

何もしていない俺を、罪人と同じ扱いで前線に回したやつ。


(……なるほどな)


視線が、一瞬こちらに向く。


(……っ)


体が固まる。


睨まれたわけじゃない。

ただ——見ただけ。


それだけで分かる。


(こいつにとって、人は“数”だ)


使えるか、使えないか。

前に出すか、残すか。


それだけで選んでいる。


(……こいつが、この戦場だ)


遠くで、声が上がる。


「——これより名を呼ぶ!」


場の空気が変わる。


兵たちが一斉に顔を上げる。


(……選別)


静かに息を吐く。


「明朝、東の陣へ進軍する!」


ざわつき。


「選ばれた者は前へ出ろ! 支度に入れ!」


名が呼ばれていく。


一人。

また一人。


前に出るたびに——空気が変わる。


(……違う)


呼ばれていない連中の顔。


安堵と、恐怖が混ざっている。


(残った方が安全か?)


——違う。


(どっちも死ぬ)


ただ、順番が違うだけだ。


(どこに送られる)


前か。

それとも——


「——山!」


(……っ)


呼ばれた。


一瞬、呼吸が止まる。


(来たか)


——違う。


(なんで、俺だ)


ほんの一瞬の違和感。


だが——


(考える時間はない)


前に出る。


「——弥助!」


隣で舌打ち。


「……チッ」


並ぶ。


前に出た人間は、少ない。


(……選ばれた)


偶然じゃない。


(見られてる)


前方。


鷹司が、こちらを見ている。


(……あいつか)


あいつが決めている。


誰を使うか。

誰を切るか。


(俺は——どっちだ)


弥助が小さく言う。


「運がいいのか、悪いのか……」


「さあな」


短く返す。


(どっちでもない)


胸の奥が、静かに冷える。


(選ばれた時点で——同じだ)


使われる側。

消耗される側。


(このままなら——)


また、踏み潰される。


(……それは)


嫌だ。


はっきりと、そう思った。


だが——


(どうする)


答えは、出ない。


それでも——


一つだけ分かる。


(このままじゃ、また同じだ)


拳を握る。


(……違う)


ふと、思う。


(選ばれるのを待つんじゃない)


(——選ぶ側に回る)


その考えが、あまりにも自然に浮かんだことに——


一瞬だけ、違和感を覚えた。


(……俺は、いつから)


そこまで考えて——やめた。


(今はいい)


生きるためだ。


それだけでいい。


そして——


(次は、“選ばされる”側じゃない)


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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