第6話 削られていく側
大部屋に戻る。
——違和感。
(……少ない)
人が、減っている。
昨日まで埋まっていた床に、空白がある。
誰かがいた場所。
誰かが寝ていた場所。
それが——消えている。
(……死んだのか)
分かっていたはずなのに、妙に重い。
空いた場所に座る。
広い。
それが、気持ち悪い。
「……あんた」
顔を上げる。
生き残った連中。
「さっきの……助かった」
「……」
言葉が出ない。
(違う)
助けたわけじゃない。
(生きるために動いただけだ)
それでも——
「……すまない」
口から出た。
「謝んなよ」
男は肩をすくめる。
「あんなもん見た後じゃ、誰でもそうなる」
(……同じか)
「おい」
前に出てきた男。
鋭い目。
「弥助だ」
「……山だ」
「知ってる。今、変に目立ってるからな」
(やめろ)
「で」
弥助が続ける。
「このまま、どうする」
「……何がだ」
「また前に出されるぞ、俺ら」
現実だった。
「何も考えなきゃ——普通に死ぬ」
「……考えてる」
弥助は少しだけ黙る。
「俺は誰に従うとか決めてねえ」
「ただ——あんたは“死ななそうな動き”してた」
「だから近くにいる」
一拍。
「利用させてもらう」
(……正直だな)
「……勝手にしろ」
「そうする」
だが——
弥助は視線を逸らさない。
(……こいつは)
(逃げない側か)
⸻
外が騒がしい。
怒声。引きずる音。
外に出る。
若い女が、兵に掴まれている。
「拾いもんだ、好きにしていいってよ」
(……やめろ)
胸がざわつく。
足が——動かない。
弥助が一歩前に出た。
「やめとけ」
「……あ?」
「それ、“戦”じゃねえだろ」
空気が変わる。
刀に手がかかる。
(……やめろ)
思う。
だが——
(俺が出れば、どうなる)
数。位置。距離。
(無理だ)
一瞬で理解する。
(ここで出れば——俺も死ぬ)
視線を動かす。
周囲の兵。位置関係。
逃げ場——なし。
(……選べ)
助けるか。見捨てるか。
——一瞬。
そして。
(……切り捨てる)
目を逸らした。
⸻
「おい!!」
怒声。
「騒ぐな! ——鷹司様が近くにおられるぞ!」
空気が止まる。
兵たちの手が止まる。
女は解放される。
「……ちっ」
舌打ち。
「運が良かったな」
吐き捨てるように言い、兵は離れた。
(……助かった、のか)
違う。
(たまたま、見逃されただけだ)
(俺は、何もしてない)
「……今の、誰だ」
「鷹司景冬」
空気が重くなる。
「あの人に目つけられたら終わりだ」
「終わり、って……」
大部屋を指す。
「——あれが、結果だ」
(……なるほどな)
選ばれた結果。
⸻
夜。
「女子供はやらねえ」
弥助が言う。
「……そうか」
「そういうのに手ぇ出すやつは、長く生きねえ」
(……さっきは動いたくせに)
あいつは動いた。
俺は——動かなかった。
天井を見る。
(助けられたか?)
違う。
(助けなかった)
自分で選んだ。
(生きるために)
(切り捨てた)
その事実が——
胸の奥に、静かに沈む。
(……これが正しい)
そう思った瞬間——
胸の奥が、少しだけ冷えた。
(……慣れるなよ)
そう思った自分に対して——
何も言えなかった。
(でも——)
(次も、同じ選択をする)
それだけは、はっきりしていた。
(続く)
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