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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感だけで成り上がる転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

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第68話 束の間の安息

山隊砦。


完成した外濠には水が満ちていた。


陽光を反射しながら静かに揺れる。


山は一人。砦の周囲を歩いていた。


外柵。

矢倉。

見張り台。

外濠。


全てを見て回る。


そして考える。


(俺ならどう攻める)


敵の視点。


それを考えるのは癖になっていた。


正面突破は難しい。


夜襲か。

火攻めか。

あるいは兵糧攻めか。


山は足を止めた。


(兵糧か)


砦は完成した。


だが。

食べ物が無ければ生きられない。

敵を防げても。飢えれば終わりだ。


山は静かに頷く。

「次はこれだな」

⸻

翌朝。


再び怒鳴り声が響いていた。


「だから言ったんだよ!!」

弥助が叫ぶ。

「絶対終わってねぇって!!」


鉄も汗だくだった。

「また掘ってんじゃねぇか!!」


迅が笑う。

「頭を信用した俺が馬鹿だったな」


周囲から笑いが起きる。


だが。

今日は少し違った。


山も泥だらけだった。


スコップを持ち。

一緒に土を掘っている。


鉄が目を丸くする。

「おい山」

「お前も掘るのか?」


山は土を掘り返しながら答えた。

「ああ」


弥助が呆れる。

「珍しいな」


山は苦笑した。

「前は設計と配置を考えてたからな」

「敵が来るかもしれなかったし」


迅が頷く。

「確かに」

「頭ずっと歩き回ってたな」


山は再びスコップを入れる。

「今回は形が出来てる」

「だから働く」


鉄が即座に返した。

「最初から働け」


笑いが起きた。


山も苦笑する。

⸻

掘っているのは畑だった。


砦近くの土地。


川から引いた水を利用する。


兵糧を育てるための畑。


山は周囲を見る。

「ここには資源が少ない」

「食料を買い続ける金も無い」

「なら作るしかない」


弥助が額の汗を拭う。

「理屈は分かる」

「だが疲れた」


鉄も頷いた。

「それは本当にそう」


迅が笑う。

「まぁでも」

「飯が増えるなら悪くねぇ」


部下たちも頷いた。


砦は守る場所。


同時に。


生きる場所でもある。

⸻

夕方。


ようやく作業が終わった。


弥助がその場へ座り込む。

「終わった……」


鉄も地面へ転がった。

「今度こそ終わった……」


迅が空を見る。

「流石にもう終わりだろ頭」


全員の視線が山へ向く。


山は少し考えた。


そして答える。


「今のところは」


沈黙。


「ほらな」

「やっぱ終わってねぇじゃねぇか!!」

爆笑が起きる。


だが。

皆の顔には笑顔があった。


砦は完成した。


畑も出来た。


少しずつだが。


生き残る準備は整っている。


山はその光景を見ながら静かに思った。


(悪くない)

⸻

その頃。


白蓮城。


宗明の屋敷。


義信は静かな部屋で茶を飲んでいた。


久しぶりだった。


安心して座れるのは。


父を失い。


命を狙われ。


疑心暗鬼になっていた心が。


少しだけ落ち着いていた。


宗明は何も言わない。


ただ。

義信を屋敷へ置いていた。


それだけだった。


だが。

それだけで十分だった。


義信は頭を下げる。


「宗明様」

「この度は匿っていただきありがとうございました」


宗明は軽く手を振る。


「礼は要らぬ」


それだけだった。


義信もそれ以上は言わなかった。


言葉よりも。


行動が全てを示していたからだ。

⸻


一方。


別の部屋。


六道幻庵は報告を受けていた。


「義信殿は宗明様の屋敷へ」


六道は目を閉じる。


「そうですか」


報告役が頭を下げる。


「これ以上は手出し出来ませぬ」


六道は小さく息を吐いた。


「やられましたね」

「まさか宗明様の元へ逃げ込むとは」


しばらく考える。


そして微笑む。


「さて」

「どうしましょうかねぇ」

⸻

その時だった。


扉が勢いよく開く。


九鬼影宗だった。


「六道殿!!」


六道が振り返る。


九鬼の表情は険しい。


「まさかお主」

「義信殿を襲撃したりはしておらぬだろうな!?」


部屋の空気が張り詰める。


六道は穏やかに微笑んだ。


「私ですか?」

「まさか」

「私も驚いておりますよ」


九鬼は六道を睨む。


だが。


証拠は無い。


六道は肩を竦めた。


「犯人を探さねばなりませんな」


しばらく沈黙。


やがて九鬼は低く言った。


「……そうであれば良いのだがな」


そう言い残し部屋を去る。


扉が閉まる。


静寂。


六道は一人になった。


そして。


小さく笑う。


「勘の良い方だ」


窓の外を見る。


白蓮城。


夜の闇。


「ですが」

「まだ終わっておりませんよ」


その目は笑っていなかった。

⸻

同じ夜。


義信は静かな部屋で目を閉じていた。


久しぶりだった。


安心して眠れそうだと思えたのは。


父を失ってから。


初めてかもしれない。


だが。


義信はまだ知らない。


この束の間の安息が。


長くは続かないことを。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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