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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

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第67話 最後の拠り所

山隊砦。


完成した水堀には、静かに水が流れていた。


川から引き込まれた清水。

陽光を反射しながら、砦を囲っている。


以前とは別の場所のようだった。


弥助と迅は堀の近くに座っていた。


手には釣竿。

のんびりと糸を垂らしている。


「これなら毎日焼き魚食えるな」

弥助が笑う。


迅も頷いた。

「肉ばっかだったしな」

「たまには魚も悪くねぇ」


その少し後ろ。

既に宴会が始まっていた。


「うめぇぇぇぇぇ!!!」


鉄だった。


焼き魚を片手に酒を煽る。


「酒が進むぅぅぅ!!」


豪快な笑い声。


その横では。

孫六と志乃が冷めた目をしていた。


「うわぁ……」

孫六が呟く。

「来なきゃ良かったっす」


志乃が睨む。

「忘れてないよね?」

「一人で行くの嫌だからって」

「私を引っ張って来たの」


孫六は目を逸らした。

「……すんません」


二人は心の底から後悔していた。

少し離れた場所。


山は玄へ声を掛けた。

「これで少しはマシになったな」


玄は堀を見る。

水。

外柵。

矢倉。

見張り台。


「ああ」

「そうだな」


「生き残るための環境か」

「よく出来ている」


山が笑う。

「だろ?」


そして。

少しだけ真面目な顔になる。


「だから玄」


「俺たちなら大丈夫だ」


玄はしばらく黙る。


やがて。

ほんの少しだけ口元が緩んだ。


「……ふっ」


「そうか」


珍しく笑っていた。


山も笑う。


「開通祝いだ」


「珍しく孫六と志乃もいるらしい」


「俺たちも行こう」


玄は立ち上がった。


「ああ」


「そうだな」


こうして何も知らない二人は。

既に地獄と化している鉄たちの元へ向かった。



その頃。


白蓮城。


夜。


義信は眠れなかった。


防人御太刀を傍らへ置く。


父の形見。


今や唯一の支えだった。


その時。


ガタン


外で音がした。


義信の目が開く。


気配。


一つではない。


複数。


義信はゆっくり立ち上がる。


次の瞬間。


バンッ!!


扉が開いた。


「義信様!!」


飛び込んで来たのは。

先日忠告してくれた相良家の古参家臣だった。


その顔は血塗れだった。


「お逃げ下さい!!」


叫ぶ。


同時に。

背後から暗殺者が飛び込む。


ザシュッ!!


家臣の刀が閃く。


暗殺者が倒れる。


だが。

さらに奥から人影。


家臣は振り返りもせず叫ぶ。


「義信様!!」


「今です!!」


「お逃げ下さい!!」


義信は歯を食いしばった。


「すまぬ!!」


走る。


背後で金属音が響く。


もう振り返らなかった。


廊下。


角を曲がる。


だが。

前方にも敵がいた。


「いたぞ!!」


刀が抜かれる。


義信も防人御太刀を抜く。


ガキィィィン!!


火花。


相手の刃を弾く。


さらに踏み込む。


一閃。


暗殺者が崩れ落ちた。


義信の動きが止まる。


戦場で人を斬ったことはある。


父と共に戦った。


敵兵を斬ったこともある。


だが。


同じ白蓮の人間へ刀を向けたのは初めてだった。


(何故だ……)


(何故こんなことになった……)


胸が痛む。


だが。

立ち止まれば死ぬ。


さらに敵が来る。


「追え!!」


「逃がすな!!」


義信は再び走る。


どこへ。


どこへ行けばいい。


味方は誰だ。


信じられる者はいるのか。


父はいない。


相良義隆はいない。


苦しい。


心が潰れそうになる。


だが。

脳裏に一人だけ浮かぶ。


白蓮宗明。


今の白蓮で。

唯一信じられる男。


義信は走った。


追手を振り切り。


夜の城を駆ける。


やがて。


宗明の部屋へ辿り着いた。


バンッ!!


勢いよく扉が開く。


室内にいた宗明が立ち上がる。


「誰だ!!」


義信はその場へ膝をついた。


返り血。


自らの傷。


服は血で汚れている。


息も荒い。


そして。

深く頭を下げた。


「ご無礼をお許し下さい!!」


震える声。


「宗明様!!」


「お助け下さい!!」


「もはや私には……」


「頼れる者がおりませぬ……!!」


部屋が静まり返る。


宗明は義信を見る。


血塗れの姿。


震える肩。


追い詰められた表情。


そして。

静かに目を閉じた。


「……そうか」


低い声。


「ついに来たか」


義信は顔を上げる。


白蓮の闇は。


ついに表へ現れた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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