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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

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第66話 開通

山隊砦。


今日も全員が泥だらけだった。


「もう嫌だ」


弥助が地面へ座り込む。


「腕が上がらねぇ」


鉄も同じだった。


「俺もだ」


「こんなに穴掘ったの初めてだぞ」


迅は泥まみれの顔で笑う。


「盗賊やってた時でもここまで掘ってねぇな」


全員の視線が山へ向く。


目の前には土の壁。

最後に残した堰だった。


その向こうには川。


そして。

掘り終えた水路


山は静かに頷く。


「これで終わりだ」


沈黙。


弥助が眉をひそめる。


「本当か?」


鉄も頷く。


「信用していいのか?」


迅が笑う。


「頭だからなぁ」

「どうせまた何か思い付いてるぞ」


山は苦笑した。


「………」


「今のところは終わりだ」


全員。


同時に顔をしかめる。


「……今のところ?」


「ほらな」


「やっぱ終わってねぇじゃねぇか!」


笑いが起きた。


だが。


その顔には安堵もあった。


ここまで長かった。


外柵。


空堀。


矢倉。


水路。


何度も戦い。


何度も壊れ。


何度も作り直した。


だからこそ。


今は少しだけ誇らしかった。


山は皆を見る。


「お疲れ」


静かな声だった。


「この水路が出来れば」


「敵はさらに攻めにくくなる」


「水の確保も楽になる」


「生活も良くなる」


「怪我人の治療にも使える」


志乃が少しだけ頷いた。


薬草。


洗浄。


煎じ薬。


確かに楽になる。


山は続けた。


「皆の生活に役立ててくれ」


少し沈黙。


そして。


鉄が叫んだ。


「長ぇ!!」


弥助が笑う。


「開通させろ!!」


迅も槍を掲げる。


「さっさとやってくれ頭!!」


孫六は矢倉の上から声を飛ばした。


「俺もう帰りたいんすけどー」


笑いが起きる。


山も笑った。


そして。


最後の土壁へ手を掛ける。


「じゃあ——」


「開通だ」


バンッ!!


土壁が崩れる。


次の瞬間。


ザバァァァァァァァァッ!!!


大量の水が流れ込む。


轟音。


歓声。


水は勢いよく水路を駆け抜ける。


やがて。


外濠へ流れ込み始めた。


皆が見守る。


少しずつ。


少しずつ。


砦を囲う堀へ水が満ちていく。


鉄が口を開いた。


「おぉ……」


弥助も笑う。


「すげぇな」


迅の部下たちも見入っていた。


誰もが理解する。


自分たちの居場所が。


また少し強くなった。


山はその光景を見ながら静かに息を吐く。


(これで少しは生き残りやすくなる)


その時だった。


遠くで鈴の音が鳴る。


リン……


志乃だった。


山が渡した鈴。


薬草籠を抱えながら歩いている。


志乃は山の視線に気付く。


「何」


「別に」


短いやり取り。


だが。


山は少しだけ笑った。


砦は完成した。


少なくとも今は。


山たちは平穏だった。



その頃。


白蓮城。


相良義信は軍議へ出席していた。


重臣たち。


雷姫。

氷牙。

赤堂烈真。


そして。


九鬼影宗。

六道幻庵。


相変わらず。

空気は重い。


義信は周囲を見る。


誰が敵なのか。

分からない。


だが。


確実にいる。


その感覚だけは消えなかった。


軍議が終わる。


退出しようとした時。


六道が近付いて来た。


「相良殿」


義信が振り返る。


「何だ」


六道は穏やかに微笑む。


「最近お疲れのようですな」


「父君を失われた直後です」


「無理もありません」


義信は表情を変えない。


「用件は」


六道は首を振った。


「ありません」


「ただ心配しただけです」


それだけ言う。


義信は何も答えず去った。


だが。


(何故だ)


(この男と話すと寒気がする)


嫌な感覚だけが残る。



夜。


義信は自室へ戻った。


静かだった。


だが。


ふと。

窓の外に人影が見えた。


義信の目が細くなる。


「誰だ」


返事は無い。


次の瞬間。


ヒュッ!!


短刀が飛ぶ。


ガンッ!!


壁へ突き刺さる。


義信は即座に防人御太刀を抜いた。


殺気。


一つではない。


屋根。


庭。


廊下。


複数。


気配がある。


義信は理解した。

脅しではない。


今度は。


本当に殺しに来た。


防人御太刀を握る手へ力が入る。


(囲まれた)


白蓮の夜。


相良義信へ向けられた刃が。


ついに牙を剥いた。


(続く)

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