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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感だけで成り上がる転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

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第63話 遺志を語る者

山隊砦。


褒賞が届いて数日。

砦の中は少しだけ賑やかになっていた。


鉄は相変わらずだった。


「おぉっ!!」


酒瓶を抱えながら笑う。


「やっぱ褒賞って最高だな!!」


弥助が呆れる。


「全部酒じゃねぇか」


「違うぞ」


鉄は真面目な顔をした。


「酒と酒と酒だ」


「同じだろ」


即座に突っ込まれる。

⸻

孫六は新しい矢を確認していた。


一本。

また一本。


真っ直ぐな矢羽根を見て頷く。


「うん」

「これならちゃんと飛びますね」


弥助が呆れた顔をする。


「前のは飛ばなかったのか」


「飛ぶには飛ぶっす」

「当たるかは別問題で」


「怖ぇこと言うな」

⸻

玄は何も買わなかった。


刀の手入れだけをしている。


鬼庭盛綱。

逃した相手。

忘れたことは一度も無い。


静かに刃を見つめる。


(次は逃がさん)


その決意だけが残っていた。

⸻

迅は部下たちへ指示を飛ばしている。


「そこの柵直せ!」

「見張り台も補強しろ!」


褒賞で得た木材。

食料。

資材。

全て砦へ回していた。


迅の部下が笑う。


「最近本当に砦になってきたな」


「今更か」


迅は鼻で笑った。


「俺らの家だぞ」

⸻

その頃。


山は町へ出ていた。


目的は一つ。


壊れた小手だった。


蒼鷹軍との戦いで砕けた。


唯一持っていた防具。

戦場で拾った物。


山は鍛冶屋へ向かう。


「直せるか?」


鍛冶屋は小手を見る。


しばらく考え。

頷いた。


「時間は掛かるがな」


山も頷く。


「頼む」

⸻

帰り道。


ふと足が止まる。


小さな露店。

そこに並んでいた物。


鈴だった。


山は手に取る。


小さい。

音も控えめ。


リン……


静かな音が鳴る。


薬草採り。

森。

見張り。


志乃はよく一人で動く。


そう考えると。

自然と手が伸びていた。

⸻

山隊砦へ戻る。


志乃は薬草を整理していた。


「ん」


山は鈴を差し出す。


志乃が眉をひそめる。


「何これ」


「鈴」


「見れば分かるよ」


山は少し考える。


そして答えた。


「森で動く時に使え」

「熊避け」


志乃が無言になる。


「……あんた」

「私を子供扱いしてる?」


「してない」


即答だった。


少し沈黙。


志乃は鈴を見る。

そして小さく息を吐く。


「貰っとく」


短い返事。

だが捨てはしなかった。


リン……


小さな音が鳴った。


⸻


白蓮城。


軍議の間。


重い空気が流れていた。


白蓮宗明。


雷姫。


氷牙。


赤堂烈真。


そして相良義信。


重臣たち。


その中に。


九鬼影宗。


六道幻庵もいた。


宗明が口を開く。


「今は立て直しが先だ」


「相良を失った」

「兵も失った」

「焦るな」


雷姫も頷く。


「まずは国内の安定を優先すべきです」


氷牙も異論は無い。


「戦力の再編も必要でしょう」


だが。


そこで九鬼が口を開いた。


「弱気ですな」


空気が変わる。


「今こそ動くべきでしょう」

「相良殿ならそうした」


義信の眉が動く。


九鬼は続けた。


「相良殿は白蓮のため戦い続けた」

「ならば我らも進むべきです」


六道も頷く。


「相良殿の遺志を継がねばなりませぬ」


その時だった。


「弱気だァ?」


低い声が響く。


全員の視線が向く。


赤堂烈真だった。


全身にはまだ包帯が巻かれている。


黒曜との激戦の傷は癒えていない。


赤堂は九鬼を睨む。


「ならお前が行け」


静かな声だった。


だが。


怒気が滲んでいる。


「牙城兵馬とやり合って来い」


「相良の代わりにな」


九鬼が眉をひそめる。


赤堂は続けた。


「相良は死んだ」


「俺もあと少しで死んでた」


「氷牙も危なかった」


軍議の間が静まり返る。


「戦ってねぇ奴ほど」

「簡単に戦を語る」


九鬼は何も返さない。


赤堂はさらに吐き捨てた。


「それと」


「勝手に相良を使うな」


義信の目が揺れる。


「相良はお前の旗じゃねぇ」


「俺たちの戦友だ」


沈黙。


そして。


義信が立ち上がった。


「父上を勝手に語るな」


軍議の空気が張り詰める。


全員が義信を見る。


義信は九鬼を睨む。


「父上を利用するな」

「何を知っている」


九鬼も黙らない。


「相良殿は白蓮の柱だった」

「だからこそ」

「その遺志を――」


「違う!!」


義信の声が響く。


「父上はそんなことのために死んだんじゃない!!」


軍議の間が静まり返る。


宗明は黙って見ていた。

雷姫も。

氷牙も。


誰も口を挟まない。


やがて。

六道が静かに笑った。


「失礼しました」

「やはり義信殿は義隆殿によく似ておられる」


穏やかな声。

だが。

義信には寒気しか感じなかった。


軍議が終わる。

義信が去った後。

六道が小さく呟いた。


「扱いにくいですな」

「相良家は白蓮に必要です」


「ですが」


「御しきれぬ力は時に災いとなる」


九鬼は腕を組む。


「若いだけだ」


六道は笑う。


「そうでしょうか」

「相良家は大きい」

「義信殿もまた」

「大きすぎるかもしれませぬ」


その言葉に。

九鬼は何も答えなかった。


父を失った義信。

そして。

父の名を利用しようとする者たち。


白蓮の中で。


静かに亀裂が広がり始めていた。


(続く)

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