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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

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第62話 遺された者

山隊砦。


夜。


珍しく砦の中が賑わっていた。


「飲め飲め!!」


鉄が酒瓶を掲げる。


「今日は褒賞祝いだァ!!」


迅の部下たちも笑う。


「酒だ!!」

「肉だ!!」

「久々にまともな飯だぞ!!」


騒がしい。


だが。

悪くない空気だった。


弥助は酒を飲みながら笑う。


「相変わらずだな」


鉄は豪快に笑った。


「生き残ったんだ」

「飲まなきゃ損だろ」


「その理屈はわからん」


弥助が呆れる。

少し離れた場所。


孫六は干し肉を齧りながら呟いた。


「しかし旦那」

「金入ったのに顔暗いっすね」


山は苦笑した。


「そんなことない」


「ありますって」


即答だった。

孫六は肩を竦める。


「どうせ砦強化とか考えてるんでしょ」


図星だった。

山は視線を逸らす。


「……必要だからな」


「ほら」

「やっぱり」


孫六が笑った。

玄は相変わらず少し離れた場所にいた。


静かに刀を見ている。

鬼庭を逃した。

その事実だけが残っていた。


(次は逃がさん)


拳が自然と握られる。

砦の夜は穏やかだった。


だが。


世界はまだ動いている。

白蓮領。


白蓮城。


相良義信は呼び出されていた。


案内された先。

そこにいたのは。


白蓮当主。


白蓮宗明だった。


宗明は静かに義信を見る。


「来たか」


義信は頭を下げる。


「お呼びと聞きまして」


宗明はしばらく黙った。


そして。

静かに口を開く。


「義信」


「……申し訳ございません」


義信が先に言った。


「父上を失いました」


声は震えていない。


だが。

拳は強く握られていた。


宗明は首を横へ振る。


「違う」


義信が顔を上げる。


宗明は静かだった。


「謝るのは余だ」

「義隆を戦場へ送ったのは余だ」


沈黙。


義信は言葉を失う。


宗明は続ける。


「義隆は最後まで白蓮の盾だった」

「余には義隆が必要だった」

「だから戦わせた」

「だから死なせた」


義信は何も言えない。


宗明は静かに義信を見る。


「だが」

「お前は義隆ではない」


義信の目が揺れた。


「義隆の代わりになろうとするな」

「父の背を追うな」

「お前はお前の道を歩め」


静かな言葉だった。


だが。

義信の胸へ深く残る。


「父上ならどうした」

「父上ならどう考えた」

「そんなことばかり考えている顔だ」


宗明は小さく笑った。


「義隆は喜ばんぞ」


義信は俯く。

そして。

小さく答えた。


「……はい」


しばらくして。


義信は部屋を後にした。


心が少し軽くなっていた。


宗明様は理解してくれている。


父のことを。


自分のことを。


そう思えた。


だが。


その安心は長く続かなかった。


廊下の先。


数人の重臣たちが待っていた。


その中心。


大柄な男。

鋭い目。

堂々とした立ち姿。


九鬼影宗。


そして。


その隣。

痩せた老人。

柔らかな笑み。

静かな眼差し。


六道幻庵。


二人は義信を見る。


「お初にお目にかかります」


幻庵が一礼した。


「六道幻庵と申します」


九鬼も頷く。


「九鬼影宗だ」


義信は軽く頭を下げた。


九鬼が口を開く。


「相良殿には感謝しております」

「義隆殿は白蓮の柱でした」


義信は黙って聞く。


幻庵も続けた。


「まことに惜しい御方を失いました」

「白蓮の損失は計り知れませぬ」


どちらも正しい。

どちらも礼儀正しい。


だが。

次の言葉だった。


「故に」


九鬼が言う。


「今後は義信殿にも白蓮を支えて頂きたい」


「相良家の力は必要です」


幻庵も微笑む。


「兵も」

「名声も」

「影響力も」

「白蓮の未来には欠かせませぬ」


義信は違和感を覚える。


父が死んだ。

まだ日も浅い。


なのに。


彼らは未来を語る。

白蓮を語る。

相良家を語る。


そして。


誰も。


父そのものを見ていない。


「義隆殿の遺志を継げるのは義信殿だけです」


幻庵が言う。


宗明様は言った。

お前は義隆ではない、と。


だが。


目の前の二人は。


義隆になれと言っている。


義信は何も答えられなかった。

夜。


相良家屋敷。


義信は一人。

防人御太刀を見つめていた。


宗明様は。

お前はお前の道を歩めと言った。


九鬼と幻庵は。

義隆の跡を継げと言った。


どちらが正しいのか。

わからない。


ただ一つ。

胸の奥に残ったものがあった。


父が守った白蓮と。

今の白蓮は。

本当に同じなのだろうか。


その疑問だけが。

静かに大きくなり始めていた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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