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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感だけで成り上がる転生戦国記  作者: 黒狐
第9章 金剛の遺志

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第61話 金剛の遺志

白蓮領。


相良家屋敷。


部屋には静かな空気が流れていた。

相良義信は一人だった。


目の前には一本の刀。

防人御太刀。

父。

相良義隆より託された刀だった。


義信は静かに手を伸ばす。

柄を握る。

そして目を閉じた。


幼い頃。

訓練場。

大きな背中。

厳しい声。

不器用な褒め言葉。

様々な記憶が浮かぶ。


『義信』

『人を守れる男になれ』

『力とは振るうためのものではない』

『支えるために使え』


父の声が蘇る。


義信は静かに刀を握り締めた。


「……父上」


それ以上の言葉は出なかった。

⸻

やがて。


義信は部屋を出る。

屋敷の廊下を歩く。


その途中。

襖の向こうから声が聞こえた。


重臣たちの声だった。


「相良殿は惜しい御方だった」


義信の足が止まる。


「まことにな」

「白蓮の柱であった」


静かな声。

義信は少しだけ目を閉じた。


だが。

次の言葉で。

表情が固まる。


「しかし」

「これでようやく動ける」

⸻

沈黙。


別の男が続ける。


「相良殿がおられた故に止まっていた案件も多い」

「今なら強硬策も通せよう」

「四天王の席も空いた」

「後任も決めねばなるまい」


義信の拳が握られる。

⸻

「お待ちくだされ」


別の重臣が口を開く。


「流石に早すぎる」

「相良殿は昨日亡くなられたばかり」


義信は僅かに安堵した。

だが。

返ってきた言葉は冷静だった。


「だからこそだ」

「国は待ってくれん」

「相良殿も理解しておられよう」

⸻

誰も笑っていない。

誰も喜んでいない。


だが。

誰も父を悼んでもいなかった。


義信は静かにその場を離れる。


何も言わず。

ただ。

胸の奥に小さな違和感だけが残った。

⸻

その頃。


山隊砦。


情報屋が現れていた。


「相変わらず妙な砦だな」


周囲を見回して苦笑する。

迅が笑った。


「褒め言葉として受け取っとくぜ」


情報屋は肩を竦めた。


「好きにしろ」


そして本題へ入る。


「白蓮と黒曜だが」


その一言で空気が変わる。

山も耳を傾ける。


「白蓮四天王」

「相良義隆が討死した」


誰も言葉を発しない。

情報屋は続けた。


「さらに赤堂烈真も危なかったらしい」

「軍の半数近く失ったそうだ」


鉄が眉をひそめる。


「そんなにかよ」

「相手は黒曜三騎士だからな」


情報屋が答える。


「もっとも」

「牙城兵馬も片目をやられた」

「篠塚景虎も重傷だ」

「黒曜側も無傷じゃねぇ」


弥助が腕を組む。


「化け物同士の喧嘩だな」

「その通りだ」


情報屋は笑った。


「お前らが首を突っ込んだら一瞬で潰れるぞ」


山は苦笑した。

否定出来なかった。

⸻

話はそこで終わらない。

情報屋は袋を取り出した。


「で」

「これはお前らへの褒賞だ」


迅が首を傾げる。


「褒賞?」

「黒曜からだ」


情報屋は頷く。


「蒼鷹軍を撃退した功績」

「結果的に黒曜背後への侵攻を防いだ」

「その礼だそうだ」


袋の中には金。

さらに別便で食料と建材も届くらしい。

迅の部下たちがざわつく。


「俺ら褒賞貰う側になったのか?」

「元盗賊なんだが」


情報屋が笑う。


「今は違うんじゃねぇか?」


誰も返せなかった。


山は金袋を見る。

そして呟く。


「砦を強化出来るな」


鉄は笑う。


「酒も買えるぞ」

「却下」


即座に志乃の声が飛んだ。

⸻

やがて情報屋は立ち上がる。


「じゃあな」


帰り際。

ふと思い出したように口を開く。


「そういや白蓮も荒れそうだぞ」


山が顔を上げる。


「四天王が一人死んだからな」

「後継争いでも始まるかもしれねぇ」


そう言い残し。

情報屋は去って行った。


山はしばらくその背中を見ていた。

世界はまだ動いている。

戦乱は終わっていない。

⸻

同じ頃。


白蓮領。


義信は窓の外を見ていた。

父が命を懸けて守った国。

父が愛した国。


だが。

その国の空気は。

義信の知る白蓮とは少しずつ違い始めていた。


第9章 金剛の遺志


開幕。


(続く)

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