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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第8章 戦乱の狼煙

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第59話 退き口

山隊砦。


戦いは終わった。


だが。

休める者は少ない。


外柵の修繕。

見張り。

武器の点検。

誰もが忙しく動いていた。


その中で。

玄だけは一人離れた場所にいた。


木へ背を預ける。

静かに刀を見る。

鬼庭を逃した。

あと一歩だった。

塚原は討ち取った。


だが違う。

討ちたかったのは鬼庭だ。

玄は拳を握る。


(次は逃がさん)


静かな殺意だけが残っていた。


少し離れた場所。


山は孫六へ声を掛ける。


「苦労を掛けたな」


孫六は露骨に嫌そうな顔をした。


「ほんとっすよ」

「一歩間違えたら俺まで死んでたんすから」


山が苦笑する。

孫六は続けた。


「ったく」

「旦那も相変わらずっすね」

「また自分で囮やるし」


山は笑って誤魔化した。


「ははは」


孫六は呆れたように肩を竦める。


「笑い事じゃないんすけどねぇ」


その様子を見ていた弥助が吹き出した。


「言ってやれ言ってやれ」

「どうせまたやるぞコイツ」


山は視線を逸らした。


否定できなかった。


一方。


鉄は酒を飲んでいた。


ゴクッ。

ゴクッ。


そして。


「くはぁっ!!」


豪快に息を吐く。


横には志乃が置いていった治療道具一式。

包帯。

薬草。

水。


つまり。


自分でやれということだった。


鉄は道具を見た。

酒を見た。

道具を見た。

酒を見た。


「……先に酒だな」


迷いは無かった。


少し離れた場所では。


迅が部下たちへ指示を飛ばしていた。


「動ける奴は修繕だ!!」

「次いつ来るかわかんねぇぞ!!」


部下たちが返事をする。

迅は周囲を見る。


「俺は見回りしてくる」


そう言って歩き出した。


山隊砦は。

勝利の余韻に浸る暇も無く動き続けていた。



一方。


黒曜領。


赤堂烈真は手綱を握り締めた。


目の前には。


既に黒曜三騎士。


逃げ道を塞ぐように立っている。


背後には追撃軍。


横へ逸れれば深い森。

突破以外に道は無かった。


赤堂は静かに息を吐く。


「見事だな」


誰へ向けた言葉でもない。


相良は死んだ。

だが。

その死が。

自分をここまで追い詰めた。


赤堂は大剣を持ち上げる。


周囲の兵たちも覚悟を決めた。


恐怖はある。


だが。


止まれば終わる。


逃げれば背を斬られる。


ならば。


前へ出るしかない。


赤堂は口元を吊り上げた。


「退き口を開くぞ」


その一言で。

兵たちの目が変わった。


一人が叫ぶ。


「おおっ!!」


また一人。


「赤堂様に続けぇ!!」


絶望的な状況。


それでも。


赤堂軍の士気は折れていなかった。


赤堂は前方を見る。


三騎士もまた。

こちらを見据えている。


戦うためではない。


生き残るための戦。


その幕が上がろうとしていた。


一人は片目へ布を巻いている。

牙城兵馬。

もう片方の目だけでこちらを見ていた。


さらに。

全身傷だらけの男。

篠塚景虎。


そして。

変わらぬ笑みを浮かべる鷺森宗玄。


赤堂は小さく呟く。


「……なるほどな」


相良は。


ここまでやったのか。


同じ頃。


黒曜三騎士も赤堂軍を見ていた。


鷺森が微笑む。


「いやはや」

「なんとか間に合いましたな」


景虎が頷く。


「流石に氷牙も雷姫も逃して」

「赤堂まで逃す訳にはいかん」


牙城だけは笑っていた。


「しゃあぁぁぁぁ!!」

「戦じゃァァァ!!」


景虎が呆れる。


「その傷でその元気か」


鷺森も苦笑した。


「少しは見習いたいものです」


その時だった。


ダダダダダダダダダッッッ!!


大地が震える。

三騎士が目を見開く。


「……!?」


赤堂軍だった。

全軍が一斉に加速する。


そして。


赤堂が吠えた。


「進めぇぇぇぇぇぇ!!!」


部下たちが続く。


だが。


誰も敵を見ていない。


見ているのは。


前だけ。


生き残る道だけ。


「敵に構うなァァァ!!」

「止まるな!!」

「進めぇぇぇぇぇ!!!」


赤堂軍は一直線に突撃する。


戦うためではない。


突破するために。


生き残るために。


牙城が笑った。


「おいおいおい!!」


鷺森が目を細める。


「強引な正面突破ですか」


景虎も驚く。


「正気か」


牙城は薙刀を構えた。

笑みが深くなる。


「舐めんじゃねェぞォォォ!!!」


黒曜三騎士。

白蓮四天王。

最後に残った猛将。

両軍が。


激突しようとしていた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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