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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第8章 戦乱の狼煙

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第58話 余波

蒼天城。


広間には重い空気が流れていた。

鬼庭盛綱は膝をついている。


その前には真壁義臣。

周囲には重臣たち。


誰も口を開かない。

鬼庭が頭を下げた。


「申し訳ございません!!」


怒声が飛ぶ。


「愚か者めが!!」


真壁の拳が机を叩く。


「黒曜へ攻め入ることもせず!!」

「山狐も取り逃し!!」

「挙げ句の果てには塚原を死なせた!!」


広間が震える。

鬼庭は反論しない。

出来なかった。

全て事実だからだ。


塚原の最期が脳裏を過る。


『鬼庭殿……撤退を』


胸が締め付けられる。

真壁は睨み続けた。


「何か言うことはないのか!!」


鬼庭は拳を握る。


「……ございません」


それしか言えなかった。


そこへ。

一人の男が入って来る。

鷹司景冬だった。


広間の空気が変わる。

景冬は鬼庭を見る。

そして静かに言った。


「今回の失敗は重い」


誰も反論しない。


「真壁殿」

「鬼庭殿」


二人へ視線を向ける。


「山狐相手に二度も失態を重ねた」

「今の蒼鷹で最も信用を失ったのは貴殿らだ」


鬼庭の肩が震える。

真壁も黙る。

景冬は続けた。


「だが」

「今動くな」


鬼庭が顔を上げた。

景冬の目は冷静だった。


「焦って動けば三度目になる」

「次は失脚では済まぬ」

「死だ」


広間が静まり返る。

真壁は歯を食いしばった。

鬼庭も拳を握る。


だが。

反論出来なかった。

今は耐えるしかない。

信頼を取り戻すには。

結果を出すしかないのだから。



その頃。


山隊砦。


戦いは終わっていた。

志乃の医療小屋は忙しかった。

負傷兵が次々運び込まれる。

包帯。

薬草。

水。

治療は続く。


それでも。

想定していたより被害は少なかった。

敵との兵力差を考えれば奇跡に近い。

治療を終えた兵たちが立ち上がる。


「助かった」

「ありがとな」

「命拾いした」


志乃は手を振る。


「さっさと出てけ」


だが。

口元は少しだけ緩んでいた。


やがて。

最後の兵が出て行く。


「ふぅ……」


志乃が息を吐く。


その時。

山が現れた。


「助かる」


短い言葉。

だが本心だった。


志乃は山を見る。

そして。

目を細めた。


「あんた」


山が嫌な予感を覚える。


「……なんだ」


志乃が睨む。


「また自分を囮にしたね」


沈黙。


山は視線を逸らした。

図星だった。


「……」


言い訳も出来ない。


だから。

話題を変える。


「今のうちに修繕しないとな」

「装備も整えないと」


そう言い残し。

さっさと立ち去る。


志乃は呆れた。


「……ったく」


だが。

怒り切れない。

山が作った砦。

山が考えた策。

それがあったから生き残れた。


その事実も理解していた。

だからこそ余計に腹が立つ。

自分だけ危険へ飛び込むから。


志乃は小さく息を吐いた。



一方。


黒曜領。


赤堂烈真は馬を飛ばしていた。


時間がない。

深く入り込み過ぎた。


安全圏まで遠い。


まず進路変更地点まで辿り着かなければならない。


そこを抜ければ。

逃げ切れる。


赤堂は理解している。


三騎士が相良との戦いで消耗しているとしても。

三人同時に相手取れば勝てない。


勇猛と無謀は違う。


だから急ぐ。

あと少し。

あと少しで。


その時だった。


前方の兵が叫ぶ。


「ぜ、前方に黒い集団あり!!」


赤堂の目が見開く。

馬を止める。


前方。


黒い旗。

黒い鎧。

無数の兵。


そして。


先頭に立つ三つの影。


赤堂は悟った。


「……間に合わなかったか」


黒曜三騎士。


ついに。


白蓮の焔将へ牙を剥く。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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