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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第8章 戦乱の狼煙

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第56話 それぞれの代償

玄の刃は深く塚原を斬り裂いた。


致命傷。


誰の目にも明らかだった。

塚原は膝をつく。

大量の血が地面を濡らしていく。


それでも。


最後の力を振り絞る。


「お……鬼庭殿……」


震える声。


鬼庭が振り返る。


「塚原殿!!」


塚原は苦しそうに息を吐いた。


「私に……構わず……」


血を吐く。

それでも言葉を続ける。


「撤退を……」


鬼庭の拳が震えた。

怒り。

悔しさ。

様々な感情が胸を焼く。


だが。

塚原の死を無駄にはできない。


鬼庭は歯を食いしばる。


「……っ!!」

鬼庭は駆け出した。


塚原はその姿を見た。


そして。


小さく笑う。


鬼庭が生きる。


それで良かった。


それだけで十分だった。


ゆっくりと目を閉じる。


そして。


蒼鷹軍副将。


塚原茂光は息絶えた。


玄が静かに刀を下ろす。

そして戦場へ向けて叫んだ。


「蒼鷹軍副将!!」


「塚原茂光!!」


「討ち取った!!」


山隊から歓声が上がる。

鉄が吠える。

弥助も拳を振り上げる。

迅隊からも歓声が響く。


だが。


山だけは静かだった。

塚原は敵だった。


それでも。

最後まで鬼庭を守った。

最後まで役目を果たした。


山は静かに目を伏せた。


その間にも。

鬼庭は全力で後退を始める。


怒りが胸を焼いていた。

後方から歓声が聞こえる。

塚原の死を喜ぶ声。

その全てが耳に刺さる。


そして。

前方に再び現れる。


山狐。

そして孫六。

孫六は既に弓を構えていた。


鬼庭の顔が歪む。


「貴様のせいで……!!」


全ての怒りが溢れ出す。

刀を握る。

追い掛けようとする。


だが。


山と孫六は再び走り出した。

森の奥へ。

姿を消す。


鬼庭の足が止まる。


(またか)


追えば追える。

だが。

その先に何がある。

また罠か。

また誘いか。


鬼庭は歯を食いしばる。

脳裏に浮かぶ。

塚原の最期。


「……撤退を」


鬼庭は拳を握った。

追わない。

今は。

追わない。


孫六の矢が飛ぶ。

鬼庭はそれを刀で弾く。

再び飛ぶ。

また弾く。


そして。

蒼鷹軍は去っていった。


山隊砦防衛戦。

結果だけを見れば。

鬼庭軍完全撤退。


塚原茂光討死。


山隊の大勝利だった。



一方。


黒曜領。


氷牙軍は撤退を続けていた。


(相良殿……)


氷牙は馬を走らせる。

だが。


焦りだけではどうにもならない。

現実は変わらない。


相良は死んだ。


今。

次に狙われるのは自分だ。

それは理解している。


鷺森宗玄も理解していた。


だからこそ。

執拗だった。

決して大軍で潰しに来ない。

決して無理に戦わない。


ただ。

離れない。

蛇のように。

まとわり付く。

逃がさない。


(時間を稼いでいるのか)


氷牙は理解する。

三騎士が合流するまで。

自分を逃がさないつもりなのだ。

氷牙は決断する。


「各隊!!」


声を張り上げる。

兵たちが振り向く。


「各自の判断で撤退せよ!!」


周囲がざわつく。

氷牙は続けた。


「敵を引き連れたままでも構わん!!」


「一人でも多く生き残れ!!」


命令が飛ぶ。

そして。

白蓮軍は背を向けた。

当然。

被害は出る。


「ぐあぁぁぁ!!」

「ぎゃあぁぁぁ!!」


悲鳴が響く。

背中から斬られる。

槍に貫かれる。

次々と倒れていく。


それでも。


止まらない。

振り返らない。

振り返れば。

全員死ぬ。


氷牙も振り返らなかった。

ただ前だけを見る。


そして。

強引に包囲を突破した。



しばらく後。


鷺森軍の元へ二つの軍勢が到着する。


牙城軍。

篠塚軍。


牙城兵馬が周囲を見る。


「遅かったか」


景虎も頷く。


「予定以上に相良討伐へ時間が掛かった」


兵馬が笑う。


「まぁいい」


「次へ行こうぜェ」


景虎も馬へ跨る。

まだ終わっていない。

白蓮四天王は二人残っている。


雷姫。

赤堂烈真。


三騎士は同時に馬を走らせる。

久我景定の策は。


まだ終わっていなかった。

(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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