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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第8章 戦乱の狼煙

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第55話 金剛の盾

「よほど今死にてぇようだな、山狐」


鬼庭がニヤリと笑う。


その視線の先には、負傷した山がいた。


塚原が眉をひそめる。


「鬼庭殿、今は山狐に構っている暇などないぞ」


「退却路を塞いでんだ」


鬼庭は刀を肩へ担ぐ。


「始末するしかねぇだろ」


塚原は黙る。

確かにその通りだ。

だが。


(わざわざ負傷した山狐が前へ出るか?)


嫌な予感がした。


その時だった。


山が全力で駆け出した。


同時に。

後方で弓を構えていた孫六も逃げ出す。


「……は?」


鬼庭が目を丸くする。


次の瞬間。

腹を抱えて笑い出した。


「はっはっはっはっ!!」

「逃げたぞ!!」

「山狐が逃げたぞォ!!」


塚原だけは笑わない。

嫌な予感が消えない。


だが。


鬼庭は既に走り出していた。


「鬼庭殿!?」


塚原が叫ぶ。


「追う必要などない!!」

「せっかく道は開いたのだ!!」


鬼庭は振り返らない。


「目の前に山狐がいたんだ」

「何も成果が無い退却より、山狐の首を持ち帰った方が真壁殿も喜ぶだろうよ!!」


「鬼庭殿!!」


塚原も慌てて追い掛ける。

山と孫六は森の奥へ消えた。


砦建設の際に作っていた避難路。

偽装された通路。

敵には見つからない。

鬼庭が到着した頃には。

二人の姿は完全に消えていた。


「どこへ行ったァ!!」


怒声が響く。

鬼庭は周囲を見回す。

だが見つからない。


「鬼庭殿!!」


ようやく塚原が追い付く。


「急ぎ撤退を!!」

「これ以上は危険だ!!」


その時。


後方から怒号が響いた。


「見つけたぞ!!」


迅隊だった。

さらに。

弥助。

鉄。

玄。

続々と山隊が到着する。

鬼庭の顔が歪む。


「おのれぇぇぇ!!」


そして乱戦が始まった。

刀がぶつかる。

血が飛ぶ。

叫び声が響く。

鬼庭は暴れた。


「邪魔だァァァ!!」


鉄が吹き飛ばされる。

弥助も弾き飛ばされる。

それでも止まらない。

再び立ち上がる。


「しつけぇんだよ!!」


鬼庭が吠える。

弥助は笑った。


「そうか?」


再び斬り掛かる。

鬼庭が刀を振るう。


その瞬間。


弥助の握った手が開いた。

砂。

大量の砂。

鬼庭の顔面へ叩き付けられる。


「ぐぁっ!!」


鬼庭が目を押さえる。


「小癪な真似をォ!!」


だが。

その一瞬。

たった一瞬で十分だった。


鬼庭の背後。


誰にも気付かれず。


玄が潜んでいた。


息を殺し。

気配を消し。

ただ一撃のためだけに。


玄が踏み込む。

刀が走る。


「っ!!」


塚原が気付いた。


「鬼庭殿!!!」


塚原は全力で飛び出す。

鬼庭へ体当たりする。

鬼庭が吹き飛ぶ。


だが。

間に合わない。


ズバァァァッ!!


鮮血が舞った。

塚原の身体が大きく揺れる。


鬼庭の視界が戻る。

目の前にいたのは。

自分を庇った塚原だった。


「塚原殿ォォォォーーー!!!」


鬼庭の絶叫が戦場へ響く。



その頃。


黒曜領。


戦いは終わっていた。


牙城兵馬は血塗れだった。


片目から血が流れている。

既に視力は失われていた。


篠塚景虎も傷だらけだった。


二人の前には。

白蓮兵たちの亡骸。


そして。



相良義隆が立っていた。



刀を握ったまま。

真っ直ぐ前を向いたまま。



兵士が近付く。


「首を——」


「やめろォォォ!!」


牙城の怒声が響く。


兵士が震える。


牙城は睨み付けた。


「相良の首は取らねぇ」

「勝手に手ぇ出した奴は俺が殺す」


静まり返る。


景虎も前へ出た。


「そのまま丁重に白蓮へ届けてやれ」


相良の前に立つ。


しばらく見つめる。


そして静かに頭を下げた。


「相良よ」

「無粋な真似はせぬ」

「貴殿の愛した地にて静かに眠られよ」


最後まで。

国のために。

部下のために。

戦い続けた男への敬意だった。


景虎が振り返る。


「行くぞ」


牙城が頷く。


「ああ」


二人は去っていく。


その後ろには。


刀を握ったまま立つ相良義隆の姿だけが残された。


白蓮四天王。


相良義隆。



戦死。



その報せは。


間もなく氷牙の元へ届く。


「相良殿が……」


氷牙の表情が凍り付く。


間に合わなかった。

助けられなかった。


胸が締め付けられる。


だが。


感情に飲まれるわけにはいかない。


氷牙は歯を食いしばる。


(このままではまずい)


即座に命令を飛ばす。


「急ぎ撤退だ!!」

「雷姫殿!!」

「赤堂殿にも至急伝達しろ!!」


だが。


その前へ。

鷺森宗玄が現れる。


穏やかな笑み。

柔らかな口調。


まるで蛇のように逃がさない。


「そう焦らないでくださいよ」


宗玄は微笑んだ。


「もう少し」

「ゆっくりしていきましょう」


氷牙は拳を握る。


(急がねば……!!)


黒曜の軍師が仕掛けた網は。


まだ白蓮軍を離そうとはしなかった。

(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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