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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感だけで成り上がる転生戦国記  作者: 黒狐
第8章 戦乱の狼煙

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第52話 包囲網

山隊に緊張が走っていた。


退路はない。


失敗すれば死ぬ。


だが——


生きるためには動くしかない。


山もまた同じだった。


胸の奥が重い。


これは賭けだ。


自分の策だ。


失敗すれば誰かが死ぬ。


玄かもしれない。


弥助かもしれない。


鉄かもしれない。


それでも——


(勝つしかない)


(俺たちが生きて明日を迎えるために)


山は視線を逸らさない。


鬼庭盛綱を見続ける。


⸻


周囲では各隊も配置についていた。


孫六隊は高所へ移動。


拠点内部を見渡せる位置から弓を構える。


迅隊は側面に展開。


敵の増援や横槍に備え、周囲の警戒を続けている。


そして志乃は医療所にいた。


負傷者受け入れの準備。


包帯。


薬草。


水。


戦いが激しくなることを理解していた。


⸻


鬼庭は進む。


山隊を斬り倒しながら。


力任せに。


強引に。


獣のように。


「どけェ!!」


蒼鷹兵も続く。


その後ろでは塚原が全体を見ていた。


そして——


鬼庭が角を曲がる。


塚原たちから鬼庭の姿が見えなくなる。


その瞬間。


山は左手でなまくら刀を掲げた。


「今だ!!」


⸻


「うおおおおおお!!!」


地響きのような雄叫び。


隠れていた山隊が一斉に飛び出した。


弥助隊。


鉄隊。


玄隊以外の全戦力。


狙うのは鬼庭ではない。


塚原軍。


そして鬼庭配下。


後方部隊だった。


「なっ——!?」


蒼鷹兵たちが動揺する。


弥助が吠える。


「大将だけ見てんじゃねぇぞ!!」


鉄も突っ込む。


「今度はこっちの番だ!!」


次々と蒼鷹兵が倒れる。


不意打ち。


完全な奇襲だった。


塚原の目が鋭くなる。


「っ!!」


すぐに理解した。


狙い。


山の策。


鬼庭と後方を切り離すつもりだ。


「迎撃せよ!!」


塚原が叫ぶ。


「鬼庭殿を孤立させるな!!」


蒼鷹兵たちも慌てて動く。


だが既に山隊は食い込んでいた。


⸻


そして。


鬼庭が曲がった先。


そこには一人の男が立っていた。


玄だった。


鬼庭が足を止める。


「……お前か」


玄は静かに刀を構える。


「ようやくだな」


鬼庭が笑う。


「はっはっは!!」


「俺を止めるつもりか!!」


玄の目は揺れない。


「止める」


「そして——」


刀を握る手に力が入る。


「討つ」


鬼庭の笑みが深くなった。


「面白ぇ」


両者が向き合う。


決着の時が近付いていた。


⸻


一方。


黒曜領。


相良義隆は馬を走らせていた。


連れている兵は十騎にも満たない。


後方から金属音が聞こえる。


叫び声も聞こえる。


牙城兵馬と戦う近衛兵たちの声だ。


だが。


走るたびに遠ざかる。


小さくなる。


そう思いたいと自分に言い聞かせる。


殺されて声が減り、小さくなっているのだとは思いたくなかった。


(皆……)


(すまぬ……!)


相良は唇を噛む。


「相良様!!」


部下が叫ぶ。


「間もなく砦です!!」


前方を指差す。


相良も顔を上げる。


だが。


違和感があった。


砦が見えない。


代わりに。


黒い影。


近付く。


さらに近付く。


影は横へ広がる。


広がる。


広がる。


やがて。


砦への道そのものを塞いでいることに気付いた。


緊張が走る。


誰も喋らない。


そして。


その正体が見えた。


黒曜三騎士。


篠塚景虎。


その軍勢だった。


相良が息を呑む。


「……そういうことか」


黒曜は待っていた。


最初から。


全てを。


⸻


その頃。


氷牙軍も全力で進軍していた。


氷牙は前だけを見る。


(急げ)


(間に合え)


相良殿を救えるのは自分しかいない。


だが。


走りながら氷牙は理解していた。


これは黒曜という国を囮にした奇策だ。


(敵領の深くまで攻めすぎたのだ……)


白蓮四天王はそれぞれ別方向へ進軍した。


先頭には赤堂。


中央に雷姫。


そして最後尾に相良。


いつの間にか横に並んでいた陣形は縦に伸び切っていた。


距離が離れる。


援軍が遅れる。


そして今——


相良だけが孤立した。


(我らは泳がされた)


(全て黒曜の掌の上だったのか……)


⸻


そして。


前方に軍勢が見えた。


黒い旗。


黒い鎧。


行く手を塞ぐ大軍。


氷牙の表情が変わる。


その先頭。


一人の男が馬上から見下ろしていた。


扇を持つ男。


穏やかな笑み。


まるで全てを見通しているかのような目。


「お急ぎかな」


男が口を開く。


氷牙の目が細くなる。


男は静かに一礼した。


「初めまして」


「黒曜三騎士」


「鷺森宗玄と申します」


氷牙は理解した。


相良。


そして自分。


白蓮四天王を分断するための策。


全ては。


この瞬間のために。


仕組まれていた。


そして——


(これが……久我景定かっ!!)


初めて。


氷牙の背筋を冷たいものが走った。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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