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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第8章 戦乱の狼煙

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第51話 違和感

山は物陰から戦場を見ていた。


鬼庭盛綱。


蒼鷹軍副将。


その刀は今も暴れ続けている。


玄隊が押される。


鉄隊も正面からは止め切れない。


蒼鷹兵も少しずつ奥へ入り込んでくる。


そして——


その後方。


塚原茂光が静かに全体を見ていた。


(厄介だな……)


鬼庭だけならいい。


だが塚原がいる。


鬼庭へ意識を向ければ塚原が動く。


塚原へ意識を向ければ鬼庭が暴れる。


既に拠点は力で押し開けられている。


まともにぶつかれば負ける。


(さて……どうする)


山は考える。


その時だった。


ふと視界に映った光景。


本来なら気にも留めないようなこと。


だが今は違った。


少しでも可能性があるなら拾う。


鬼庭と部下たちの距離。


近くない。


一定以上近付かない。


鬼庭の後ろを付いてはいるが、邪魔にならない距離を保っている。


塚原の部隊も同じだった。


(なんだ……?)


山は目を細める。


鬼庭は前だけを見ている。


後ろを気にしていない。


部下も鬼庭を助けようと前へ出ない。


むしろ遠慮しているように見える。


そこで思い出す。


鬼庭の言葉。


『俺の出世のために死んでくれや』


『山狐の首は俺の獲物だ』


あの異様な執着。


そして周囲の反応。


(武功か……)


戦功。


出世。


褒賞。


部下たちは鬼庭の武功を奪わないように動いている。


鬼庭もそれを当然だと思っている。


山の口元が僅かに動いた。


(一枚岩じゃない)


完全な統率ではない。


鬼庭を中心に動いているが、鬼庭のために遠慮が生まれている。


そこに隙がある。


山はゆっくり立ち上がる。


痛みが走る。


だが構わない。


「弥助」


「鉄」


二人が振り返る。


「なんだ?」


「策か?」


山は頷く。


そして静かに言った。


「鬼庭は相手にするな」


二人が眉をひそめる。


「は?」


「無視するってことか?」


山は頷く。


「鬼庭から距離を取れ」


「狙うのは周りだ」


「部下と塚原を削る」


「鬼庭だけを置いていく」


玄も視線を向ける。


山は続けた。


「鬼庭が孤立したら」


「その時初めて鬼庭を狙う」


沈黙。


やがて弥助が笑う。


「なるほどな」


鉄も頷く。


「大将だけ置き去りにするわけか」


弥助が眉をひそめた。


「待て」


「鬼庭はどうする」


鉄も頷く。


「あいつ無視してたら真っ直ぐ突っ込んで来るぞ」


山は答えない。


その沈黙を破ったのは玄だった。


「……俺が残る」


全員の視線が集まる。


玄は鬼庭のいる方角を見たまま続けた。


「足止め役は俺がやる」


弥助が目を細める。


「玄」


鉄も察したように黙る。


玄は拳を握った。


「元々」


「俺が始めたことだ」


静かな声。


だが確かな重みがあった。


「斯波を斬った」


「鬼庭を副将にした」


「山まで傷付けた」


先程の光景が脳裏をよぎる。


鬼庭の刃。


動けなくなった自分。


そして。


自分を庇って負傷した山。


玄は低く言った。


「だから」


「今度は俺が終わらせる」


誰も口を挟まない。


その言葉の意味が分かっていたからだ。


足止め。


それは建前だ。


玄は鬼庭と決着を付けるつもりでいる。


山はしばらく黙っていた。


そして小さく息を吐く。


「……無理はするな」


玄は少しだけ笑った。


本当に少しだけ。


「それは無理だな」


山も苦笑する。


だが止めなかった。


玄が逃げるつもりではないことも。


討てるなら討つつもりでいることも。


全部分かっていた。


それでも。


今の玄なら戻って来る。


そう信じた。


「分かった」


山は頷く。


「鬼庭は任せる」


玄も頷いた。


「任せろ」


こうして。


山隊の反撃が始まろうとしていた。



一方。


黒曜領。


牙城兵馬と相良義隆の戦いは決着へ向かっていた。


巨大な刃が振り下ろされる。


「相良殿ォォォ!!!」


側近の絶叫。


ザシュッ——


「ぐっ……!」


相良は咄嗟に身体を捻った。


急所は外れる。


だが。


肩から胸へ深い傷が刻まれた。


鮮血が飛び散る。


牙城が笑う。


「はっはァ!!」


「ギリギリで急所を外したかァ!!」


「やるじゃねェか!!」


相良は膝をつきそうになる。


だが踏み止まる。


「相良殿!!」


近衛兵たちが駆け寄った。


「ご無事ですか!!」


「……心配無用だ」


そう答える。


だが血は止まらない。


誰の目にも重傷だった。


近衛兵が叫ぶ。


「相良殿はお下がりを!!」


「ここは我らが時間を稼ぎます!!」


「後方の砦へ!!」


相良は歯を食いしばる。


悔しい。


だが理解していた。


ここで死ねば終わる。


「……すまぬ」


相良は馬へ乗る。


そして後方の砦へ向かった。



それを見た牙城が不満そうに舌打ちする。


「おいおいおいィィィ!!」


「興が冷めるじゃねェかよォ!!」


巨大な刃を肩へ担ぐ。


「逃がすなよォ!!」


だが近衛兵たちが立ちはだかる。


「ここは通さん!!」


牙城は目を細めた。


「へぇ?」


「お前ら」


「分かってんだろ?」


「俺に勝てねェぞ?」


近衛兵は答える。


「承知の上だ」


「相良殿さえ無事なら本望!!」


牙城は数秒黙った。


そして笑った。


「はっはっはァ!!」


「いいじゃねェか!!」


「その覚悟」


「嫌いじゃねェ!!」


巨大な刃が振り上がる。


「本物の戦ってやつを見せてやんよォ!!」


牙城軍が前進する。


近衛兵たちも迎え撃つ。


死ぬためではない。


主を生かすための戦い。


壮絶な時間稼ぎが始まった。



その頃。


氷牙軍は馬を走らせていた。


氷牙は前だけを見る。


(間に合ってくれ……)


相良の無事を祈りながら。


白蓮四天王の一角は。


戦場へ急いでいた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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