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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第8章 戦乱の狼煙

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第49話 牙を剥く拠点

山は志乃の手当てを受けていた。


砕けた小手。


唯一身につけていた防具。


戦場で生き残ったあの日。


亡骸から奪い取った物だった。


その小手は今、無残に砕け散っている。


志乃は傷口を確認しながら舌打ちした。


「まったく……」


「無茶ばっかりして」


山は顔をしかめる。


痛い。


だが動けないほどではない。


「もう大丈夫だ」


「今は時間が惜しい」


志乃の眉が吊り上がる。


「あんたねぇ」


「また無理したら次は手当てしないからね」


山は聞こえなかったふりをした。


志乃はさらに不機嫌になる。



「現状は?」


山が訊く。


迅が答えた。


「今は外の蒼鷹軍が頭を探してます」


「でも偽装のおかげで混乱してるみたいですよ」


山は頷く。


思った通りだった。


拠点は機能している。


それだけで十分だった。



山は立ち上がる。


周囲へ視線を向ける。


弥助。


鉄。


玄。


孫六。


迅。


全員が集まっていた。


「各隊」


「退路は常に確保しろ」


「深追いは禁止」


「敵が見えても飛び出すな」


皆が頷く。


山は続けた。


「敵の視界外から攻撃し続けろ」


「拠点の中で正面から戦う必要はない」



この拠点は守るためだけに作ったわけではない。


敵を誘導するため。


敵を迷わせるため。


敵を削るため。


細い通路。


偽装された分岐。


視界を切る壁。


入り組んだ構造。


敵の数を殺すための設計だった。


数で勝てないなら。


戦う場所を変えればいい。



「各隊」


「拠点に入り込んだ蒼鷹軍を削れ」


静かな声だった。


だが全員が聞いている。


「この拠点に手を出したことを」


「後悔するくらいにな」



その姿を。


志乃は黙って見ていた。


今まで見てきた山は違う。


弱い。


戦えない。


それなのに前へ出て死にかける。


そんな男だった。


だが今は違う。


拠点。


偽装。


誘導。


作戦。


全てに意味があった。


そして何より。


山隊の誰一人として山を疑わない。


弥助も。


鉄も。


玄も。


孫六も。


当然のように従っている。


(……なんなんだい)


志乃は小さく息を吐いた。



その頃。


拠点内部。


蒼鷹軍は迷っていた。


「くそっ!!」


「どこに隠れやがった山狐は!!」


鬼庭が怒鳴る。


塚原は冷静だった。


「落ち着きなされ鬼庭殿」


「どうせ逃げ場などありません」


鬼庭は鼻を鳴らす。


「ふんっ」


「じわじわ炙り出してやるわ」



蒼鷹兵たちは薄暗い通路を進む。


前方は見えない。


左右も壁。


一本道。


その時だった。


ガンッ!!


壁が開く。


「なっ——」


次の瞬間。


無数の刀が突き出された。


「ぎゃあああああ!!」


蒼鷹兵が次々と倒れる。


悲鳴。


血飛沫。


狭い通路が地獄へ変わる。



後方の兵たちが慌てて駆け寄る。


そして見た。


倒れ伏す仲間たち。


その向こう。


壁の隙間の奥に。


玄隊。


そして鉄隊。


静かに立っていた。


「次だ」


玄が呟く。


鉄が笑った。


「通行料は高ぇぞ」



別ルート。


分岐した通路。


蒼鷹兵たちは正解と思われる道を進む。


だが。


ヒュッ——


矢が飛ぶ。


「ぐあっ!!」


一人倒れる。


また一人。


さらに倒れる。


どこから撃たれているのか分からない。


兵たちは周囲を見回す。


だが見えない。


見えるのは暗闇だけ。



高所。


偽装された足場。


そこにいたのは孫六隊だった。


「次」


ヒュッ。


矢が飛ぶ。


蒼鷹兵が倒れる。


「あー」


「今日も楽な仕事っすね」


孫六は面倒そうに呟いた。



どの道を選んでも。


山隊が望まぬ限り。


生きては進めない。


拠点そのものが牙を剥いていた。



やがて。


鬼庭の元へ報告が届く。


「お、恐れながら!!」


鬼庭が振り返る。


「なんだ」


兵は震えていた。


「拠点へ侵入した部隊が……」


「ほぼ壊滅しました!!」



鬼庭と塚原が固まる。


「……は?」


鬼庭が呟く。


相手は百にも満たない賊。


袋の鼠。


そのはずだった。


なのに。


壊滅したのはこちら。



鬼庭は部下の胸ぐらを掴み上げた。


「貴様」


「相手は賊だぞ?」


「それで壊滅しただと?」


兵は青ざめる。


「ひっ……」


塚原が制止する。


「鬼庭殿」


鬼庭は舌打ちした。


「ちっ」



そして刀を抜く。


その目には怒りが宿っていた。


「貴様らでは埒があかぬ」


刀を肩へ担ぐ。


「俺が行く」



蒼鷹の猛将。


鬼庭盛綱。


ついに自ら拠点へ足を踏み入れようとしていた。


(続く)

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