第49話 牙を剥く拠点
山は志乃の手当てを受けていた。
砕けた小手。
唯一身につけていた防具。
戦場で生き残ったあの日。
亡骸から奪い取った物だった。
その小手は今、無残に砕け散っている。
志乃は傷口を確認しながら舌打ちした。
「まったく……」
「無茶ばっかりして」
山は顔をしかめる。
痛い。
だが動けないほどではない。
「もう大丈夫だ」
「今は時間が惜しい」
志乃の眉が吊り上がる。
「あんたねぇ」
「また無理したら次は手当てしないからね」
山は聞こえなかったふりをした。
志乃はさらに不機嫌になる。
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「現状は?」
山が訊く。
迅が答えた。
「今は外の蒼鷹軍が頭を探してます」
「でも偽装のおかげで混乱してるみたいですよ」
山は頷く。
思った通りだった。
拠点は機能している。
それだけで十分だった。
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山は立ち上がる。
周囲へ視線を向ける。
弥助。
鉄。
玄。
孫六。
迅。
全員が集まっていた。
「各隊」
「退路は常に確保しろ」
「深追いは禁止」
「敵が見えても飛び出すな」
皆が頷く。
山は続けた。
「敵の視界外から攻撃し続けろ」
「拠点の中で正面から戦う必要はない」
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この拠点は守るためだけに作ったわけではない。
敵を誘導するため。
敵を迷わせるため。
敵を削るため。
細い通路。
偽装された分岐。
視界を切る壁。
入り組んだ構造。
敵の数を殺すための設計だった。
数で勝てないなら。
戦う場所を変えればいい。
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「各隊」
「拠点に入り込んだ蒼鷹軍を削れ」
静かな声だった。
だが全員が聞いている。
「この拠点に手を出したことを」
「後悔するくらいにな」
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その姿を。
志乃は黙って見ていた。
今まで見てきた山は違う。
弱い。
戦えない。
それなのに前へ出て死にかける。
そんな男だった。
だが今は違う。
拠点。
偽装。
誘導。
作戦。
全てに意味があった。
そして何より。
山隊の誰一人として山を疑わない。
弥助も。
鉄も。
玄も。
孫六も。
当然のように従っている。
(……なんなんだい)
志乃は小さく息を吐いた。
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その頃。
拠点内部。
蒼鷹軍は迷っていた。
「くそっ!!」
「どこに隠れやがった山狐は!!」
鬼庭が怒鳴る。
塚原は冷静だった。
「落ち着きなされ鬼庭殿」
「どうせ逃げ場などありません」
鬼庭は鼻を鳴らす。
「ふんっ」
「じわじわ炙り出してやるわ」
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蒼鷹兵たちは薄暗い通路を進む。
前方は見えない。
左右も壁。
一本道。
その時だった。
ガンッ!!
壁が開く。
「なっ——」
次の瞬間。
無数の刀が突き出された。
「ぎゃあああああ!!」
蒼鷹兵が次々と倒れる。
悲鳴。
血飛沫。
狭い通路が地獄へ変わる。
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後方の兵たちが慌てて駆け寄る。
そして見た。
倒れ伏す仲間たち。
その向こう。
壁の隙間の奥に。
玄隊。
そして鉄隊。
静かに立っていた。
「次だ」
玄が呟く。
鉄が笑った。
「通行料は高ぇぞ」
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別ルート。
分岐した通路。
蒼鷹兵たちは正解と思われる道を進む。
だが。
ヒュッ——
矢が飛ぶ。
「ぐあっ!!」
一人倒れる。
また一人。
さらに倒れる。
どこから撃たれているのか分からない。
兵たちは周囲を見回す。
だが見えない。
見えるのは暗闇だけ。
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高所。
偽装された足場。
そこにいたのは孫六隊だった。
「次」
ヒュッ。
矢が飛ぶ。
蒼鷹兵が倒れる。
「あー」
「今日も楽な仕事っすね」
孫六は面倒そうに呟いた。
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どの道を選んでも。
山隊が望まぬ限り。
生きては進めない。
拠点そのものが牙を剥いていた。
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やがて。
鬼庭の元へ報告が届く。
「お、恐れながら!!」
鬼庭が振り返る。
「なんだ」
兵は震えていた。
「拠点へ侵入した部隊が……」
「ほぼ壊滅しました!!」
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鬼庭と塚原が固まる。
「……は?」
鬼庭が呟く。
相手は百にも満たない賊。
袋の鼠。
そのはずだった。
なのに。
壊滅したのはこちら。
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鬼庭は部下の胸ぐらを掴み上げた。
「貴様」
「相手は賊だぞ?」
「それで壊滅しただと?」
兵は青ざめる。
「ひっ……」
塚原が制止する。
「鬼庭殿」
鬼庭は舌打ちした。
「ちっ」
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そして刀を抜く。
その目には怒りが宿っていた。
「貴様らでは埒があかぬ」
刀を肩へ担ぐ。
「俺が行く」
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蒼鷹の猛将。
鬼庭盛綱。
ついに自ら拠点へ足を踏み入れようとしていた。
(続く)




