第48話 救出
鬼庭は邪悪な笑みを浮かべていた。
目の前には動けない山狐。
真壁義臣ですら討ち取れなかった男。
その首が、今まさに手の届く場所にある。
(俺がやる)
(真壁殿でも成し得なかった山狐討伐をなァ!!)
鬼庭の口元が吊り上がる。
出世。
武功。
栄光。
全てが手に入る。
「はっはっは!!」
「終わりだ山狐ォ!!」
鬼庭は刀を振り上げた。
そして――
山へ向けて振り下ろす。
その瞬間。
何かが足元へ転がった。
コロリ――
「……あ?」
鬼庭が視線を落とす。
直後。
ドォンッ!!
激しい爆発音が響いた。
「ッ!?」
白煙が一気に広がる。
視界が消える。
周囲が真っ白に染まった。
⸻
「玄!!」
志乃の叫び声が響く。
「山を連れて下がりな!!」
「!!」
玄は即座に動いた。
山を肩へ担ぎ上げる。
「行くぞ!」
「っ……」
山は痛みに顔を歪める。
それでも抵抗はしない。
玄は全力で後退した。
⸻
志乃も駆け寄る。
「あんたら揃いも揃って何やってんだい!」
怒鳴りながら周囲を確認する。
追撃はまだ来ていない。
白煙が時間を稼いでいる。
山は砕けた小手の残骸を押さえ、激痛に顔を歪めながらも苦笑いした。
「……すまん」
「助かった」
志乃は睨みつけた。
「あとで説教だ」
そして玄を見る。
「玄!!」
「山を医療所まで運ぶ!」
「すぐだ!」
「……ああ」
玄は山を担ぎ上げる。
志乃も周囲を警戒しながら後退した。
そして医療所へ戻った瞬間――
「志乃!」
迅が駆け寄ってきた。
「どこ行ってたんだ!?」
「探したんだぞ!?」
志乃は呆れたように答える。
「怪我しないよう立ち回っただけさ」
「嘘つけ」
「どうせまた危ない所行ったんだろ」
「うるさいね」
そう言いながら志乃は山を見る。
「話は後だ」
「まずは手当てが先だよ」
迅もようやく山の怪我に気付く。
「頭っ!?」
「怪我したのか!?」
玄の表情は暗い。
山を担ぎながら呟いた。
「……俺のせいだ」
「俺が止まった」
「俺が……」
拳が震えている。
山は痛みに耐えながら答えた。
「違う」
「俺が勝手に飛び込んだだけだ」
「気にすんな」
玄は首を振る。
「気にする」
「俺のせいだ」
山は困ったように笑う。
その横で。
志乃が呆れた顔をした。
「いや」
「あんたは気にしろよ」
⸻
その言葉に。
周囲の者たちも思わず頷いた。
「そうだぞ頭!」
「また無茶しやがって!」
「寿命縮むわ!」
弥助が怒鳴る。
鉄も叫ぶ。
「次は俺らが殴るからな!」
孫六も顔を青くする。
「またっすか旦那!!」
迅も呆れたように肩を落とした。
「頭、本当に勘弁してくださいよ……」
皆の視線が山へ集まる。
山は苦笑いを浮かべた。
「……悪い」
だがその顔は。
全く反省している顔には見えなかった。
⸻
やがて。
白煙が晴れ始める。
鬼庭の顔が現れた。
その表情は怒りに歪んでいた。
「ちっ!!」
「あと少しだったってのによォ!!」
刀を振り払う。
山はもういない。
玄もいない。
志乃も消えている。
鬼庭は舌打ちした。
「逃がしたか……!」
そこへ塚原が近付く。
「鬼庭殿」
「それでも山狐を負傷させた功績は大きい」
冷静な声だった。
鬼庭は不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「ふんっ」
「次は首を取ってやるわ」
そして刀を前へ向ける。
「全軍追撃だ!!」
「山狐を逃がすなァ!!」
蒼鷹軍が再び動き始めた。
⸻
一方。
黒曜領。
牙城兵馬と相良義隆の戦いは激化していた。
相良は理解している。
この戦を長引かせてはならない。
黒曜軍の狙い。
それは白蓮軍の分断。
最後尾にいる自分を足止めし。
白蓮四天王の連携を崩すこと。
(策にはまるわけにはいかん)
相良は前線を見る。
牙城兵馬。
巨大な体。
狼の毛皮。
そして。
圧倒的な武力。
「果敢だなァ!!」
牙城が笑う。
「好きだぜぇ!!」
「自分から前へ出てくる将ってやつはよォ!!」
相良は眉一つ動かさない。
「……舐めるな」
静かに言う。
そして号令を飛ばした。
「前列後退!」
「第二列前進!」
白蓮軍が動く。
前列が下がり。
後列が前へ出る。
波のように攻撃が続く。
波状攻撃。
牙城軍へ絶え間なく襲いかかる。
⸻
さらに。
事前に配置していた遊撃隊が動いた。
黒曜軍の側面を回り込み。
背後へ到達する。
「今だ!」
「かかれぇ!!」
白蓮兵が突撃する。
「ぐあぁぁっ!!」
黒曜兵が悲鳴を上げた。
前後からの挟撃。
黒曜軍の陣形が乱れる。
⸻
だが。
牙城は動かない。
ただ前方に立つ。
まるで巨大な岩山だった。
牙城へ届く前に。
部下たちが攻撃を受け止める。
それでも。
相良は攻撃を続ける。
一歩ずつ。
確実に。
牙城へ迫っていく。
⸻
そして。
ついに。
牙城の姿がはっきり見えた。
相良は槍を握る。
「今だ」
最後列にいた相良自身が前へ出た。
側近たちも続く。
白蓮軍の士気が上がる。
「相良殿だ!」
「相良殿が前へ出られたぞ!!」
牙城は楽しそうに笑った。
「はっはっはァ!!」
「そう来なくっちゃなァ!!」
⸻
相良は槍を前へ向ける。
そして叫んだ。
「目指すは牙城の首!!」
「皆、進めぇぇぇ!!!」
白蓮軍が吠える。
牙城軍も迎え撃つ。
怪物と盾。
黒曜三騎士と白蓮四天王。
二人の激突が。
ついに始まろうとしていた。
(続く)
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