第45話 火蓋
蒼鷹軍。
黒曜領へ向かう街道。
鬼庭盛綱率いる軍勢は進軍を続けていた。
その時。
前方へ出していた斥候が駆け戻る。
「ご報告!」
鬼庭が視線を向ける。
「申せ」
斥候は膝をついた。
「まもなく山狐の拠点と思われる地点へ到着します!」
鬼庭は口元を吊り上げた。
「ご苦労」
斥候が下がる。
鬼庭は前を見据えた。
(さぁ山狐)
(俺の武功の糧になってもらおうか)
真壁義臣を退却へ追い込んだ男。
その首を取れば。
副将では終わらない。
鬼庭盛綱の名は一気に広まる。
そう確信していた。
⸻
そこへ後方から別働隊が現れる。
塚原茂光だった。
鬼庭は顔をしかめる。
「なんだ来たのか」
「はっ」
「俺の武功が減ってしまうではないか」
豪快に笑う。
塚原は呆れたようにため息を吐いた。
「山狐を甘く見ては足元を掬われるぞ」
鬼庭は前方を指差した。
「そうは言うても見てみろ」
塚原も視線を向ける。
木柵。
外壁。
矢倉。
確かに拠点として整備されている。
鬼庭は笑う。
「盗賊の巣にしては良く出来ている」
「だが中途半端だ」
「城にもなれず」
「砦にもなれず」
「所詮は素人仕事よ」
さらに周囲を見る。
「堀もあるようだが浅い」
「こんなもの何の障害にもならん」
塚原は黙る。
だが胸騒ぎは消えない。
「……何も無ければ良いが」
小さく呟いた。
⸻
その頃。
山たちの拠点。
矢倉の上。
物見が叫んだ。
「来た!!」
「真壁じゃなさそうだ!!」
「見たことねぇ奴が二人いる!!」
下にいた弥助が顔を上げる。
「真壁じゃねぇのか?」
鉄が鼻を鳴らした。
「さすがにまだ治ってねぇだろ」
孫六は弓を持ちながら肩を竦めた。
「んじゃ」
「とりあえず作戦通りっすね」
⸻
蒼鷹軍が接近する。
距離が縮まる。
さらに縮まる。
孫六が手を上げた。
「今っす」
次の瞬間。
無数の矢が空へ放たれた。
ヒュン―――!!
一斉放射。
蒼鷹軍へ矢の雨が降り注ぐ。
「ぐあっ!!」
「敵襲!!」
数人が馬から落ちる。
混乱が広がる。
だが。
鬼庭は止まらない。
矢を払いながら笑う。
「馬鹿がっ!!」
「こんなもので俺が止められるか!!」
騎馬がさらに前進する。
⸻
孫六はそれを見る。
「あー」
「放射終わりっす」
後ろへ振り返る。
「弓隊後退」
「予定通りっすよ」
弓兵たちは素早く下がっていく。
蒼鷹軍からは見えない。
板壁が視界を遮っている。
鬼庭は不快そうに眉をひそめた。
「隠れやがって」
⸻
やがて。
拠点入口へ蒼鷹軍が到達する。
鬼庭が刀を抜いた。
「突撃だ!!」
蒼鷹兵たちが雄叫びを上げる。
塚原は後方から拠点を見ていた。
(このまま何もなければ良いが)
そう思いながら。
⸻
同時刻。
黒曜領。
白蓮軍。
白蓮四天王の一人。
相良義隆率いる軍勢が進軍していた。
その前方。
黒曜軍が展開している。
斥候が報告した。
「ご報告!!」
「前方の軍勢は黒曜三騎士の一人!」
「牙城兵馬とのことです!!」
相良は目を細める。
(牙城兵馬……)
(黒曜軍の怪物か)
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やがて。
黒曜軍の前列から一人の男が進み出る。
白蓮兵たちがざわついた。
大きい。
ただ大きいだけではない。
熊のような体格。
狼の毛皮。
巨大な薙刀。
まるで戦場そのものが歩いているようだった。
男は笑う。
「おれァ黒曜三騎士の一人」
「牙城兵馬だ!!」
大声が響く。
相良は少し驚いた。
名乗る。
それも敵の前で。
よほど自信があるのか。
それとも。
ただ戦いを楽しんでいるだけか。
⸻
相良も前へ出る。
「私は白蓮四天王の一人」
「相良義隆」
兵馬が笑った。
「いいねェ!!」
「大物だ!!」
「殺りがいがあるってもんだァ!!」
相良は静かに槍を構える。
「侮ってもらっては困る」
「守りが得意なだけで」
「攻めが弱い訳ではない」
兵馬はさらに笑った。
「いいねェ!!」
「だったら試させてもらうぜぇ!!」
相良は冷静に答える。
「やってみろ」
⸻
兵馬が薙刀を掲げる。
「ハッハッハッ!!」
「やァッと暴れられるぜ!!」
振り下ろした。
「てめぇら!!」
「殲滅だァ!!」
黒曜軍が一斉に動く。
⸻
相良も槍を掲げた。
「皆の者!!」
「黒曜軍を殲滅せよ!!」
白蓮軍も動く。
⸻
白蓮軍。
黒曜軍。
二つの大軍勢が激突する。
⸻
そして。
別戦線では。
山隊と蒼鷹軍の戦いも始まろうとしていた。
各地で火蓋が切られる。
戦乱の狼煙は、
ついに大地を覆い始めていた。
(続く)




