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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感だけで成り上がる転生戦国記  作者: 黒狐
第7章 過去の檻

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第42話 戦支度

数日後。


拠点には、今日も木槌の音が響いていた。


「縄引け!」


「杭押さえろ!」


「そっち板足りねぇ!」


怒鳴り声。


笑い声。


土を掘る音。


最初はただの隠れ家だった場所が、少しずつ形を変え始めていた。


⸻


完成した外柵へ、さらに板が貼られていく。


矢を通しにくくするため。


そして、中を見えにくくするため。


迅が木材を担ぎながら笑う。


「いやぁ、頭のこういう嫌らしい仕掛け、俺ら得意なんすよ」


山は柵を見る。


「見えない方が怖い」


「敵は勝手に警戒する」


迅は嬉しそうに頷いた。


「そうそう、そういうのっす!」


「相手が勝手にビビってくれるなら儲けもんなんで!」


⸻


一方。


外では、まだ空堀作業が続いていた。


深く。


広く。


拠点を囲うように掘り進められていく。


鉄が汗を拭った。


「これ、終わるのか?」


「終わらせる」


山は短く答える。


「正面以外から入れなくする」


玄が静かに周囲を見る。


「……大軍相手前提か」


「多分、次はもっと来る」


誰も否定しなかった。


真壁は、諦める男ではない。


⸻


矢倉では、孫六が面倒そうに座っていた。


だが、その目は真面目だった。


「そこ、板貼り過ぎっす」


下の男が見上げる。


「駄目か?」


「見えねぇ」


「あと、その木残すと射線切れるんで」


弥助が呆れたように笑う。


「お前、そういう時だけ細けぇな」


「死にたくないだけっすよ」


適当な声。


だが、矢倉は孫六の指示で少しずつ変わっていく。


撃ちやすく。


隠れやすく。


生き残りやすく。


⸻


拠点奥。


簡易医療小屋も、最低限の形が完成していた。


布。


水桶。


薬草。


乾燥棚。


志乃は黙々と薬草を分けている。


鉄が酒瓶片手に近付いた。


「お、ちゃんと薬師っぽくなったな」


「酒臭い」


即答だった。


鉄が笑う。


「酒は元気出るぞ」


「傷開くわよ」


「消毒だ消毒」


「馬鹿」


弥助が吹き出した。


「言われてんぞ」


鉄は豪快に笑う。


志乃は呆れたように息を吐いた。


だが。


鉄の腕の包帯だけは、黙って巻き直してやる。


その様子を見て、弥助が少し笑った。


⸻


夜。


作業を終えた連中が、焚き火の周りへ集まっていた。


疲労で、皆泥だらけだった。


酒。


干し肉。


粗末な食事。


だが、空気は少し明るい。


迅の部下たちも笑っている。


以前より、空気が柔らかかった。


⸻


山は酒を持ちながら、焚き火を見ていた。


前の世界では、こんな時間は無かった。


働いて。


使われて。


終われば終わり。


“お疲れ”


なんて、言われたこともない。


だからこそ。


山は、静かに口を開いた。


「……皆、ありがとう」


少しだけ空気が止まる。


言った瞬間。


山自身が、少しだけ気恥ずかしくなる。


こんな風に、大勢の前で感謝を口にしたことなんて、ほとんど無かった。


だが、もう止められなかった。


山は続けた。


「助かってる」


「拠点作り、本当に感謝してる」


迅の部下たちが、少し驚いた顔をする。


弥助が笑った。


「真面目かよ」


鉄も笑う。


「まぁでも、悪くねぇな」


迅は少しだけ目を細めた。


誰かに、ちゃんと感謝される。


それだけで、不思議と悪い気はしなかった。


⸻


その後。


山は酒瓶を持ったまま、矢倉へ向かった。


上では、孫六が一人で夜を見ていた。


「……何してるんすか」


「飲みに来た」


山が酒を置く。


孫六は少し驚いた顔をした。


「他行かなくていいんすか?」


下では、まだ皆が騒いでいる。


山は苦笑した。


「いいんだよ」


「今は、お前と飲みたい」


少し間。


「……嫌なら戻る」


孫六は困ったように頭を掻く。


「嫌じゃないすけど」


「楽しくないっすよ?」


山は小さく笑った。


「そんなん求めてねぇよ」


夜風が吹く。


未完成の矢倉。


遠くで、笑い声が聞こえる。


孫六は酒を飲みながら、小さく呟いた。


「……旦那、変なんすよ」


「よく言われる」


即答。


孫六が少し笑った。


「普通、あそこまで自分削らねぇ」


山は少し黙る。


そして、静かに酒を見た。


「誰かだけに、背負わせたくねぇんだよ」


「指示したのは俺だ」


「なら、俺にも責任がある」


その言葉に。


孫六は少しだけ視線を逸らした。


「……難儀っすねぇ」


だが。


その声は、少し柔らかかった。


⸻


その頃。


白蓮軍は、黒曜領へ進軍していた。


先陣を切るのは、雷姫。


その勢いは凄まじく、残存していた砦も既に陥落している。


報せを聞いた赤堂烈真が笑った。


「はっ!まぁ雷姫だしな!」


氷牙も静かに頷く。


「時間を掛ける相手ではない」


相良義隆は地図を見る。


「このまま押し込めば、黒曜は崩れる」


白蓮軍は止まらない。


そのまま、黒曜領深部へ迫っていた。


⸻


黒曜領。


黒曜景綱は、静かに地図を見ていた。


落ちた砦。


迫る白蓮軍。


そして、低い声で言う。


「……景定を呼べ」


その一言で、家臣たちの空気が変わる。


「既に、影月城へ使者を出しております」


静かな沈黙。


景綱は地図を見たまま、低く呟いた。


「白蓮を止めよ」


「久我景定」


黒曜軍最強の軍師が、ついに動き出そうとしていた。


(続く)

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